SBTイニシアティブでは、現在様々なセクター(業種別)のガイダンスを開発しています。2022年9月末、その中の一つである【森林、土地および農業(FLAG)】のガイダンスが公開されました。
今回は、FLAGガイダンスの翻訳と、簡単な内容、また算定方法の解説が掲載されているGHGプロトコルの【Agriculture Guidance】の翻訳及び簡単な解説を合わせてご紹介いたします。
目次
【FLAGガイダンス】と【Agriculture Guidance】掲載場所
【FLAG-Guidance(森林・土地・農業科学的根拠に基づく目標設定ガイダンス 2022年9月)】
FLAG-Guidance(森林・土地・農業科学的根拠に基づく目標設定ガイダンス)は、文字通り、森林、土地、農業分野の科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標を、設定するためのガイダンスです。
掲載場所は、SBTの公式ウェブサイトの【Sector guidance】から【Forest, Land and Agriculture (FLAG)】を選択し、【DOWNLOAD THE FLAG GUIDANCE】でダウンロードできます。
【GHG Protocol Agriculture Guidance(GHGプロトコル農業ガイダンス) 】
GHG Protocol Agriculture Guidance(GHGプロトコル農業ガイダンス)は、FLAG(森林・土地・農業科学的根拠に基づく目標設定)をするために、どのように温室効果ガス排出量を算定するのか、が記載されています。
掲載場所は、【GREENHOUSE GAS PROTOCOL】の【GUIDANCE】の中の【Agriculture Guidance】からダウンロードできます。
どうしてFLAGの算定をしなきゃいけないの?
人為的な温室効果ガスの排出(CO₂換算)の約22%(年間13GCO₂t)はFLAG(森林、土地、農業セクター)からの排出となっています。世界の食料需要の増加に伴い、2050年には農業生産は約50%増加すると予想されています。
FLAGからの温室効果ガスの排出を2050年までに大幅に削減する必要がありますが、これまでFLAG(森林、土地、農業セクター)の明確な温室効果ガスの排出量算定基準や、削減目標はありませんでした。
FLAG(森林、土地、農業セクター)の温室効果ガス排出は、下記のような活動が起因して起こります。
- 森林減少、沿岸湿地の転換、泥炭地の転換・排水・焼却、サバンナや天然草原の転換によるバイオマスや土壌炭素損失
- 土地管理による排出(腸内発酵、バイオマス焼却、栄養管理、肥料使用、糞尿管理による亜酸化窒素やメタンなど)
- 土地管理からの排出(例:腸内発酵による亜酸化窒素とメタン、バイオマス燃焼、栄養管理、肥料使用、糞尿管理)
これらは、他の化石/産業用または非FLAGターゲットとは別個のもので、別々に算定する必要があります。
また大きな特徴として、排出だけでなく、生物由来の除去(吸収)も算定に加えることになっています。
- 生物由来の除去(例:森林再生、シルボパスチャー、改良型森林管理、アグロフォレストリー、土壌炭素隔離)
こうした背景の中、2022年9月、SBTが、【土地、農業の分野における温室効果ガスの排出量の目標設定に必要なガイダンス】を公開しました。
FLAGの対象となる企業は?
FLAGの目標設定が必要な会社は、以下の条件のいずれかを満たす企業としています。
- 森林・紙製品(林業、木材、パルプ、紙)、食品生産(農業生産)、食品生産(動物由来)、食品・飲料加工、食品・主食小売業、タバコ。※天然魚介類はFLAG目標不要
- FLAGに関連する排出量の合計がスコープ全体の排出量の20%以上を占める企業。
20%という基準は、ネット(全体から除去量を引いたもの)ではなく、全体の排出量として計上する必要がある。
小売業、容器・包装、ホテル・レストラン・レジャー・観光サービス、繊維製造・紡織・アパレル、繊維・アパレル・靴・高級品、耐久消費財、家庭用品・個人用品、タイヤ、建築製品、住宅建築、建設資材、建設やメンテナンス、インフラ開発、鉱業、道路、建設、資源採取などに関連するLUC(土地利用変化)排出量を持つ企業などが、関連してくる
とガイダンスには記載があります。
SCOPE1,2だけでなく、SCOPE3も含めた、SCOPE全体で20%以上の排出量がある場合は、FLAGの対象になるということで、木材や食品を取り扱う企業や、大規模な土地に関係する事業を行う企業など、あらゆる業界に影響が及ぶと考えられます。
※中小企業はFLAG目標設定の必要はありません。
※出典:FLAG-Guidance(森林・土地・農業科学的根拠に基づく目標設定ガイダンス)
いつからFLAGの対応が必要?
SBT認定を取得済み、もしくは認定を目指すあらゆる企業に、対応が求められるFLAGですが、いつから対応する必要があるのでしょうか。
FLAG FAQs資料から抜粋した資料を翻訳しました。
この資料によると、SBT目標をまだ設定していないFLAG対象企業は、2023年3月までは推奨となっており、2023年4月から必須になり、すでにSBT目標設定済みのFLAG対象企業は、2023年末までにFLAG目標を設定することと記載されています。
FLAGの算定、どうすればいいの?
では、具体的に、どのようにFLAGのSCOPE1、2を算定すればよいのでしょうか。
算定方法については、SBTイニシアティブのウェブサイトのFLAGのページの【資力(Resources)】に掲載されている【SBTiFLAGターゲット設定ツール】や、冒頭にご紹介した【GHG Protocol Agriculture Guidance(GHGプロトコル農業ガイダンス) 】の後半に、活用できるツールが多数紹介されています。
【SBTiFLAGターゲット設定ツール(Download the SBTi FLAG Target Setting Tool)】
【 GHG Protocol Agriculture Guidance(GHGプロトコル農業ガイダンス) 】の後半
最後に
今回はFLAGについて、簡単に概要を紹介させていただきました。
これまで、原生林を伐採して、農場や牧場にした場合の影響を、企業の温室効果ガス排出量に反映できていませんでした。
森林として蓄えられていた炭素が大気に放出され、毎年落ち葉などに姿を変えて土壌に蓄積していた二酸化炭素の影響も、畑に大量に施肥された肥料から放出されるメタンガスや一酸化二窒素の影響も、考慮されてきませんでした。
今回のSBTの【森林、土地および農業(FLAG)】は、こうした森林、土地、、農業からの温室効果ガスがどれだけのものなのかを、完璧ではありませんが、企業単位で大まかに把握する、画期的な取り組みだといえます。
そして今までは、経済的に価値が¥0だった生物や生態系の価値を見直し、それらを経済活動に組み込むツールとして、新しい概念を世界に広めることができるのではないかと感じます。
SBTの認定を取得した企業や、目指している企業、関連企業にとって、広範囲の業界、分野に影響を与えるこの【森林、土地および農業(FLAG)】は、新たな悩みの種になると思われますが、そこに取り組む価値は、持続可能な社会を創るうえで、非常に高いと言えます。
弊社はFLAGの対象企業ではないので、実際にFLAGのSCOPEを算定したことはありません。
ただ、弊社のお客様には、食品工場や、スーパーなど、FLAGに関係するお客様が多数いらっしゃいます。直接的には関係していなくても、間接的に関係する企業様も多いのではないでしょうか。
そんな企業様の参考になれば幸いです。
※上記は弊社で翻訳したものです。不完全だったり、レイアウトが崩れているところがあったりします。また、翻訳ミスや解釈違い等により生じた責任は当社では負うことができません。正確な理解をご所望の際は原文も合わせてお読みください。
弊社は中小企業向けのSBT認定支援(有料)をスタートさせました。SBT(SME)認定後、毎年必要となるSCOPE1、2算定ですが、お客様の力で算定するための考え方や算定方法について、サポートをさせていただきます。お気軽にご相談ください。