日本が2050年までに目指しているカーボンニュートラルですが、実現における最大の課題として、エネルギー転換部門の脱炭素化が挙げられます。
エネルギー転換部門は日本のCO2排出部門の中で最大であり、CO2排出量のうちの41%を占めます。エネルギー転換部門の脱炭素化の切り札が、再生可能エネルギーです。
最近では、再生可能エネルギーの一つである洋上風力の発電所が秋田県にて全国で初めて商業運転を開始したことも話題になりました。
そんな再生可能エネルギーの現状と課題について解説いたします。
目次
日本と再生可能エネルギー
再生可能エネルギーとは?
再生可能エネルギーとは、自然界に存在し、温室効果ガスをほとんど排出しないエネルギーのことを言います。
再生可能エネルギーは、日本国内の省エネ法で定められている種類(基準)と温室効果ガス排出量算定の国際基準で定められている種類(基準)が異なります。
・太陽光
・風力
・水力
・地熱
・太陽熱
・大気中の熱・その他の自然界に存在熱
・バイオマス
再生可能エネルギーの最大の特徴は、その環境負荷の小ささです。
(図中の太陽光発電の排出量は家庭用を指しており、事業用の太陽光発電のCO2排出量は59g-CO2/kWhです。)
※電力中央研究所「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」
再生可能エネルギーは設備の建設や運用に伴い少しCO2を排出するものの、発電に燃料を必要しないため、火力発電に比べて1.2~8.0%しかCO2を排出しません。
そのため、エネルギー転換部門の排出量削減の方法として注目を集めています。
日本における再生可能エネルギーの重要性
再生可能エネルギーのもう一つの特徴として、燃料が資源に依存しないため、エネルギー自給の向上につながることが挙げられます。
日本はエネルギー自給率が低く、資源の多くを海外からの輸入に頼っているため、再生可能エネルギーの普及により得られるメリットが特に大きいです。
※経済産業省 資源エネルギー庁 「エネルギーの今を知る10の質問」
日本と諸外国の再生可能エネルギーの発電比率の比較
2020年時点では、日本の再生可能エネルギーの導入量は世界第6位で、先進国と肩を並べています。
その一方で、日本の発電量に占める再生可能エネルギーの比率は19.8%にとどまっており、他の先進国と比較するととても低いです。
※資源エネルギー庁 「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」
日本の再生可能エネルギーの特徴として、太陽光発電の量が大きいことが挙げられます。日本の太陽光発電量は世界第3位です。
また、再生可能エネルギーの増加のスピードに関しては世界でもトップクラスであり、2012年から2020年にかけては再生可能エネルギーによる発電量が約4倍になりました。
※資源エネルギー庁 「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」
日本の再生可能エネルギーの目標
日本は、2021年の第6次エネルギー計画において、2030年の再生可能エネルギーの比率を36~38%に引き上げることを目標に掲げました。
具体的には、各エネルギー源について、全体量に占める割合を以下の通り目指すとしています。
水力:7.8%→11%(1.4倍)
太陽光:7.9%→14~16%(1.8~2倍)
風力:0.9%→5%(5.6倍)
バイオマス:2.9%→5%(1.7倍)
地熱:0.3%→1%(3.3倍)
特に太陽光や風力については今後さらに力を入れて普及させる見通しであることがわかります。
再生可能エネルギーはコストが高いって本当?
温室効果ガスの排出量削減やエネルギー自給率の向上などの大きなメリットがある再生可能エネルギーですが、いくつか課題もあります。
その中でも最も口にされるのが、そのコストの高さです。
皆さんの中でも再生可能エネルギー=コストが高い、というイメージを持っている方もいると思います。
しかし実は近年では再生可能エネルギーのコストの削減が急速に進んでおり、必ずしもコストは高くない、というのが事実です。
※資源エネルギー庁 「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」
上の図から、2014年から2019年のわずか5年間の間に、事業太陽光発電と陸上風力発電のコストは半分ほどになったことがわかります。
発電コスト | 石炭火力 | LNG火力 | 太陽光発電(2023年見通し) | 陸上風力(2023年見通し) |
発電コスト(円/kWh) | 12.5 | 10.7 | 9.8 | 8.8 |
また、2023年の発電コストの見通しを従来の発電方法と比較すると、再生可能エネルギーの方が安価であるということがわかります。
再生可能エネルギーは高い、というのは過去の話になりつつあるということです。
余剰な発電の買取を保証するFIT・FIP制度
発電コストの低下と併せて再生可能エネルギー導入の追い風となっているのが、FIT・FIP制度です。
FIT制度とは、「固定価格買取制度(Feed in Tariff)」の略称で、一般家庭や事業者が再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です。
この制度により余剰な発電分の買取が保証されるため、供給の不安定性をカバーしつつ、発電設備の高い建設コストの回収の見通しが立ちやすくなりました。
FIT制度が開始されたのは2012年で、この制度の導入が日本の再生可能エネルギーの増加率が世界トップクラスであることに貢献していることは間違い無いでしょう。
一方で、FIP制度とは、「フィードインプレミアム(Feed in Premium)」の略称で、2022年4月に新たにスタートした制度です。
FIP制度は、電力を固定価格で買い取るFIT制度と違い、再エネ発電事業者が再生可能エネルギーを卸電力取引市場で自由に売電させ、そこで得られる売電収入に一定の補助額(プレミアム)を上乗せする、という制度です。
このプレミアム分は電気使用者から徴収する賦課金で賄われ、FIT制度と比較すると少ない金額で抑えることができるのが特徴です。
この制度により、FIT制度と比較してより的確な資金援助ができるだけではなく、買取金額の原資を支払う国民の負担も下げることができると期待されます。
再生可能エネルギーの他の課題は?
コストが高いという問題がないのであれば、なぜ再生可能エネルギーはもっと普及していないのでしょうか。
その大きな理由として、天候などに左右されるために供給が不安定であることが挙げられます。
ここでは、その課題とそれに対する解決策について説明いたします。
再生可能エネルギーの供給不安定性
再生可能エネルギーの中には、発電量が天候に大きく左右されるものがあります。
特に太陽光発電や風力発電は太陽光の量や風の強さに依存し、時間帯や季節によって大きく発電量が違います。
これに比べて、原子力発電や火力発電は容易に発電量を変化させることができるため、電力需要に合わせて発電量を調整できるというメリットがあります。
再生可能エネルギーの強い味方「蓄電」
発電量が変動しやすい再生可能エネルギーは、発電量が需要量を上回る時に蓄電し、電力が不足した時に放電する蓄電技術と組み合わせて使うことが効果的です。
蓄電技術には二次電池を始めとした以下のような様々な種類があります。
- 二次電池
- フライホイール
- 超伝導電力貯蔵
- 揚水発電
- 圧縮空気電力貯蔵
- 水素電力貯蔵
ただし、蓄電自体もコストが高いことや貯めた電気が自然と減っていく「自己放電」などの問題があります。
そのため、現在でも蓄電の新技術の開発が行われています。
今回は、その中でも原始的かつ効果的な方法として注目されている「重力蓄電」について説明いたします。
重力蓄電とは?
重力蓄電とは、その名の通り、ものの「重さ」を利用した蓄電のことです。
より具体的には、重いものを高い位置に持ち上げることで電気を「貯め」、それを低い位置に落とすときに発生するエネルギーを「使う」、という方法です。
これは、揚水発電と似た仕組みで、揚水発電では電気を使って水を持ち上げ、エネルギーが必要な時に水を落とすが、それを水の代わりのもので行うのが重力蓄電です。
重力蓄電のメリットは、構造がシンプルであるため、汎用性が高いことです。場所さえあれば簡単に作ることができ、コストも低いです。
この重力蓄電を事業として行っているベンチャー企業であるEnergy Vault社は、30トンのコンクリートの塊を引き上げて電気を貯め、それを下に落とす時にモーターを回し、発電しています。
Energy Vault社はタワー型と倉庫型の二つの蓄電システムを利用しています。
- タワー型:タワー型のユニットの屋上にクレーンを置き、コンクリートブロックを積み上げることで充電します。ブロックは高さ60メートルまで積み上げられます。ブロックにもリサイクル素材が利用されており、環境負荷を極限まで少なくすることへの意識の高さがうかがえます。
- 倉庫型:倉庫型では、ブロックを倉庫内の上の階に引き上げ、並べていき、それらを落とすことで発電します。総小型はタワー型よりも低く、短期間の設置が可能です。
このような新たな技術の開発により、今後は蓄電技術が向上し、より効果的に再生可能エネルギーが使用可能になることが期待されます。
※Energy Vault ホームページ
(ホームページに、2分ほどで重力蓄電の概要を紹介している動画があります。より具体的なイメージが湧くと思いますので、ぜひご覧ください。)
最後に
2050年カーボンニュートラルの実現には不可欠な再生可能エネルギーですが、その歴史は浅く、従来の発電方法と張り合うにはまだ多くの課題が残されています。
それらの課題を乗り越え、より広く普及させるためのカギとなりそうなのが「蓄電技術」や「政策支援」です。
新たな技術や政策により目まぐるしく状況が変化しそうな再生可能エネルギーから、今後も目が離せません。
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