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わかりやすい!【鉄】鋼業 脱炭素 最新動向(SBT Steelガイダンス草案”翻訳”付!)

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わかりやすい!【鉄】鋼業 脱炭素 最新動向(SBT Steelガイダンス草案”翻訳”付!)

昨今、日本では2050年カーボンニュートラルに向けた動きが加速しており、各企業や業界が排出目標を設定した上で、脱炭素化に向けてさまざまな取り組みを行なっています。

その中で、日本のCO2排出量全体の14%を占める鉄鋼業においても、脱炭素の動きが強まっています

鉄鋼業は日本の産業部門の中で最大のCO2排出部門であり、その脱炭素化は、カーボンニュートラル達成の上で不可欠と言えます。

この記事では、鉄鋼業の脱炭素化に関する課題やその解決のための各社の動きを紹介いたします。

鉄鋼業の日本経済における重要性

日本の鉄鋼業は、22万人の雇用を支える一大産業です。

日本の鉄鋼業の特徴として、1.日本の主要産業である製造業を支える基盤となっていること、2.鉄鋼生産の質・量ともに世界最高水準であることが挙げられます。

日本の鉄鋼業

1.日本経済の主要産業である製造業を支える

鉄鋼業をはじめとする素材産業は、製造業のGDPの約2割を占めます。

また、日本の高品質な鉄鋼材は自動車産業などの日本の主要産業の競争力維持に大きく貢献しています。

2.鉄鋼生産の質・量ともに世界最高水準である

日本は昔から世界有数の鉄鋼生産国であり、現在でも中国、インドに次ぎ世界第3位の生産量を誇ります

鉄鋼業のエネルギー効率

引用:日本鉄鋼連盟 環境への取り組み

また、日本の鉄鋼生産のエネルギー効率は世界最高です

エネルギー効率とは、生産量当たりのエネルギー消費量のことであり、エネルギー効率が良いことは省エネ、さらには脱炭素に繋がります。

この世界最高レベルの省エネ技術を諸外国へ移転し、世界規模でのCO2削減を実現することが期待されます。

鉄鋼業の脱炭素化に向けた課題

日本の主要産業の一つであり、CO2排出量が大きい鉄鋼業ですが、その脱炭素化には様々な課題が残っています。

それらの課題について考える前に、まずは鉄の作り方について簡単に説明いたします。

鉄には主に二つの作り方があります。それは、天然資源(鉄鉱石)から鉄を作る高炉・転炉法と、使用済みの鉄をリサイクルして鉄を作る電炉法です。

それぞれの特徴は以下の通りです。

高炉・転炉法

これは日本で最も主要な生産方法で、鉄のおよそ8割がこの方法により作られています。材料としては主に鉄鉱石が使われます。

高炉・転炉法では、鉄鉱石を加熱して溶かし、不純物を取り除くことで、純度の高い鉄を生産します。

ここで、鉄鉱石を加熱する際に、石炭を燃やすことで高温状態を作り出すため、二酸化炭素が大量に排出されます

電炉法

この方法では、材料として主に使用済みの鉄が使われます。

電炉法は、資源の再利用につながるだけでなく、天然資源から鉄を生産する転炉法に比べてCO2排出量がおよそ4分の1になります

一方で、鉄はさまざまな素材と一緒に製品に使用されているため、使用済みの鉄をリサイクルすると他の素材が混入してしまうことが多く、高品質の鉄を作るのは難しいです。

二つの生産方法の比較

生産方法主な材料CO2排出量鉄の品質日本での生産割合
高炉・転炉法鉄鉱石多い高い約8割
電炉法使用済みの鉄少ない低い約2割

このように、現状では鉄の品質の面では高炉・転炉法が、CO2削減の面では電炉法が有力であり、排出量の削減と鉄の高品質性を両立するのが困難です。この両立の実現が、鉄鋼業のカーボンニュートラルを実現する上での最大の課題と言えます。

脱炭素化に向けた各社の動き

日本の主要な鉄鋼メーカ3社である日本製鉄、JFEスチールと神戸製鋼所は、いずれも2050年カーボンニュートラルを目指しており、さまざまな取り組みを行なっています。

ここでは、各社の取り組みについて簡単に説明いたします。

日本製鉄

主要な取り組み:1.大型電炉での高級鋼の生産、2.水素還元製鉄、3.CCUS

電炉の生産における課題として、
1.高品質な鉄の生産が困難であること
2.大型の電炉での大規模な生産が難しいこと
が挙げられます。

それに対して、日本製鉄は2022年10月より高級鋼の電炉での生産を開始しており、自動車等に必要な高級鋼の電炉での生産に挑戦していますまた、2030年にはこれを大型の電炉で生産するという目標を立てています。

電炉での高級鋼の生産が可能になれば、鉄鋼生産における排出量の削減と鉄の高品質性の両立が可能になり、鉄鋼業の脱炭素に大きく近づきます。

参照:日本製鉄 大型電炉での高級鋼製造

JFEスチール

主要な取り組み:1.カーボンリサイクル高炉、2.CUU

JFEスチールは、CO2排出が多い生産方法である高炉・転炉法の脱炭素化に向けた技術開発に力を入れています。

具体的には、高炉・転炉法において発生するCO2を水素と反応させ、生成したメタンを再利用する技術を開発しています

この方法によって、現行の高炉法と比較してCO2排出量を50%以上削減できることが実証されています

参照:JFEスチール カーボンニュートラル戦略説明会

神戸製鋼所

主要な取り組み:1.グリーンスチール「Kobenable Steel」の生産、2.MIDREX技術

神戸製鋼所は、国内で初めて、高炉におけるCO2の排出量を大幅に削減した鋼材を商品化しました。

この低CO2高炉鋼材は「Kobenable Steel」として2022年に販売が開始されました。

「Kobenable Steel」の生産にはMIDREX技術を用いたCO2排出量の削減技術と、CO2削減効果を特定の鋼材に割り当てる「マスバランス方式」が用いられています。

「マスバランス方式」とは?

マスバランス方式は、製品の製造工程において、ある特性を持った原料とそうでない原料とが混在するとき、特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性を割り当てる方法です。

マスバランス方式

例えば、従来の鉄と比較してCO2の排出量を25%削減した鉄を4t生産した場合、マスバランス方式を使うことで、4t分のCO2削減量を1tの鉄に集め、CO2を100%(25%×4)削減した鉄として考えることができます。ただし、このとき、残り3tの鉄のCO2削減量は0%になることに注意が必要です。

この方法を使うことで、現状では生産できないような二酸化炭素の排出を伴わない「カーボンフリースチール」の生産が可能になります。

参照:神戸製鋼所 Kobenable Steelの商品化について

SBT Steelガイダンス草案が公開されました!”翻訳”もご紹介!

SBTのセクターガイダンスでもSteelのガイダンス草案が公表されました。

◆翻訳:【翻訳】SBTi-Steel-Guidance-draft ja (1)(スチールサイエンスベースドターゲットセッティングガイド パブリックコンサルテーションのためのドラフト 2022年11月)
※翻訳についての責任は一切負えません。ご了承ください。

まとめ

鉄鋼生産における脱炭素には容易な方法はなく、2050年カーボンニュートラルの実現には革新的な技術が必要です。

その中で、鉄鋼メーカー各社は脱炭素に向けたさまざまな技術の開発に尽力しています。

これから日本の鉄鋼メーカーがどのようにCO2削減を行い、いかに鉄鋼業の脱炭素を世界的にリードしていけるかに注目していきたいです。

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