脱炭素社会の実現への関心が高まっています。2021年3月には「温暖化対策推進法」の改正により、「2050年までの脱炭素社会の実現」が法律に明記されました(→【地球温暖化対策推進法(温対法)改正!何が変わる?】)。
18世紀の産業革命以降の人間生活の急速な発展は、大量の二酸化炭素排出を伴って実現したものです。二酸化炭素排出と現在の人類の活動は不可分の関係とも言え、「2050年までの脱炭素社会の実現」には多大な努力が求められることになります。
そんな中、特に地方自治体では、脱炭素に取り組むノウハウや、人、資金が足りていないと指摘されます。そこで、民間のノウハウを取り入れる官民連携(PPP)に期待がかかります(→【PPPとPFI -民間企業の力で効率的な公共サービスの展開-】)。
https://www.ecology-plan.co.jp/information/18293/
本記事では、「北陸グリーンボンド」による、脱炭素社会の実現に向けた、北陸での先進的な取り組みをご紹介します。
PPPによるLED化包括民間委託事業
金沢市では、市内の小中学校の体育施設と市営体育館、計81施設の照明をLED化することに対し、官民連携の取り組みを行っています。
金沢市の事例では、市が民間の事業会社(北陸グリーンボンド1号事業株式会社)に委託して照明のLED化を行います。事業会社はLED化により削減したコストの一部をサービス料として受け取り(10年間)、LED化のために要した資金の回収をします。
従来、毎年度の予算の中からLED化の費用を捻出しなければならなかった金沢市としては、民間の資金調達・施工・マネジメント等のノウハウを活用して、少ない財政負担で、短期間のうちにLED化を推し進めることができます。省エネ対策が立ち遅れがちな公共施設において、環境負荷の低減に早急に取り組むことができる仕組みといえます。
金沢市では、このLED化事業により電気使用量が年間375万kWhから130万kWhに削減でき、年間約9000万円の維持管理費の削減が見込まれます。
北陸グリーンボンド株式会社と“グリーンボンド”
上のような、大規模なPPP事業では、規模が小さく資金力のない地元企業は単独で受注できず、このような大型事業を受注した都会の大企業の下請けとなってしまう事例がほとんどでした。地方自治体の公共事業であるにもかかわらず、お金が地域から外へ流れてしまっていたのです。
北陸グリーンボンド株式会社は、この現状の打開策としてグリーンボンド(環境債)※の活用により資金調達を行っています。地元企業である米沢電気工事との共同出資により、LED化事業を行う特別目的会社(北陸グリーンボンド1号事業株式会社)を設置して、地元の設計会社や施工会社、維持管理会社などを束ね、自治体に対して省エネ化支援を行っています。
これは、地域の事業者の力を最大限活用できる仕組みとして、環境省の「グリーンボンド発行モデル創出事業」に選定されています。
今後、北陸グリーンボンド株式会社はLED化以外の環境・エネルギー政策課題の解決について、幅広い分野で取り組んでいくようです。地方行政、住民、地域事業者、地域金融などの多くのステイクホルダーにとって有益な、地域循環型の課題解決事業として期待されており、先述の同社のLED化包括事業は2020年度の地方創生SDGs官民連携優良事例として選定されています。
※グリーンボンド(環境債)
地球温暖化や環境問題への対策に関わる資金を調達するために発行される債権のことです。一般事業者や金融機関、地方自治体が主な発行主体となり、資金調達を行います。
環境意識が高まる中、世界中で注目されています。国内でも発行額が年々増加しており、2015年以降の5年間で約18倍になっています。
出典:国内企業等によるグリーンボンド等の発行実績(環境省)
おわりに
今回ご紹介しました北陸グリーンボンド株式会社の取組みは、行政の事業を民間委託し、グリーンボンドによる資金調達を行い、さらに地域の事業者をまとめ上げて地域の力で問題を解決しています。
「官民連携×環境問題の解決×地方創生」という、近年注目され、また必要とされいる3つの観点を包括した魅力的な事業といえます。
このような、社会貢献と採算性を両立させた事業はソーシャルビジネス/コミュニティビジネスとも呼ばれます。積極的に取り組み、未来の世代に誇れる事業を作り上げていきたいものです。