温室効果ガスの削減、特にエネルギー使用に関わる規制、法律として省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)と温対法(地球温暖化対策の推進に関する法)、そして東京都では独自の総量削減義務があります。
企業の脱炭素の取り組みで再エネ電力を調達しても、認められないものもあるようです。これらの法規制に対応するための再エネ電力調達について、簡単にご紹介いたします。
目次
省エネ法、温対法、東京都の総量削減義務ってどんなもの?
それぞれの法律が、どのようなものなのか、簡単にご紹介します。
省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)
1979年に制定された法律で、オイルショックをきっかけとして、エネルギー使用の合理化、つまり省エネを推進するためにできた法律です。
経済産業省が管轄し、事業者(法人格)のエネルギー使用量が原油換算値で合計して年間1,500kL以上である場合等に対象となります。
対象事業者は、エネルギー管理統括者及びエネルギー管理企画推進者を配置し、エネルギー使用状況等をまとめたいくつかの報告書の提出が必要となります。
また、業種ごとに目指すべき水準が決められており、報告内容ごとに事業者がクラス分けされ、Sランクが公表され、Cクラスは指導等が行われます。
参照:事業者クラス分け評価制度について(PDF形式)
定期報告書による報告若しくは報告徴収に係る報告をせず、若しくは虚偽の報告をした場合、又は立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合は、50万円以下の罰金。命令に従わない場合は100万円以下の罰金となります。
温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)
1998年に公布された法律で、京都議定書をきっかけとして、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取組むための枠組みを定めた法律です。
環境省が管轄し、対象となるのは、エネルギー起源のCO₂排出が、全体のエネルギー使用量(原油換算)で合計して年間1,500kL以上、の事業者です。
また、温室効果ガスには、CO₂以外にも様々な物質があり、特に影響が大きい6種類の物質が温対法の規制対象になっています。温対法の対象はこれらエネルギー起源ではないCO₂以外の温室効果ガスが、全ての事業所合計でCO₂換算して年間3000t以上、の事業者も含みます。
この、メタンやフロンなどCO₂以外の温室効果ガスを規制しているのが温対法の特徴です。省エネ法と連携しており、CO₂の排出に関しては、省エネ法の報告をそのまま使うことができます。
対象事業者は、毎年排出量を把握し、事業者所轄大臣に報告する必要があります。その後環境大臣、経産省大臣が集計し、公開されます。
参照:環境省 経産省 集計結果
報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の罰則あります。
■CO₂以外の温室効果ガスは下記の物質です。
これはGHGプロトコルの含むべき項目と一致しています。
①二酸化炭素(CO₂)
②メタン(CH4)
③一酸化二窒素(N2O)
④ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
⑤パーフルオロカーボン類(PFCs)
⑥六ふっ化硫黄(SF₆)
東京都 総量削減
東京都の総量削減は、元石原都知事が1999年4月に任期についてから、2000年12月、環境確保条例、2002年11月に総量削減義務を提起し、2008年に都議会の全会一致で可決した法規制です。
対象となるのは都内のエネルギー使用量が原油換算で年間 1,500 kL 以上の事業所です。
都内の温室効果ガスの削減が進んでいない中、経営層も巻き込む形で、削減に取り組んだ企業が報われる【排出量取引制度】を導入したもので、削減義務率に到達しなかった企業は、独自のクレジットを購入し、削減義務を相殺する必要があります。
参照:第3計画期間に適用する改正事項等 説明資料(2019.4)
使える再エネが違う?!
省エネ法では、エネルギー使用は年間1500kl以上あっても、再エネ調達分を一定割合差し引くことができます。
ただ、東京都に事業所がある場合は、東京都の総量削減義務も考慮に入れなければいけません。
東京都の総量削減義務で、認められる再エネは、【低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者】からの供給となります。
国が公開している【電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)】が0.00の電力を調達していても、東京都では【低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者】の、認定された排出係数を使う必要があります。
この【低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者】は、電力供給事業者のメニューごとではなく、会社ごとの係数が認定されています。再エネの割合を選べるプランがある電気供給事業者の係数は0.00ではなくなってしまいます。
つまり、100%再エネ電力調達していて、温室効果ガス排出が実質0であるにも関わらず、東京都総量削減義務では、0にできない、という事態が生じます。
この【低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者】は2021年度算定用で、19社しか登録がありません。700社近い登録がある【電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)】とは異なり、選択肢がかなり絞られます。
東京都に事業所がある場合は、この【低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者】を確認したうえで、再エネ電力調達をすることをお勧めいたします。
参照:2020 低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者
これらの法律に効果的な対策とは?
温対法、省エネ法の対象事業者で、東京都に事業所がある場合は、【低炭素電力 認定電気供給事業者に登録された電気供給事業者】の中から、再エネを調達することで、3つの法規制の要求に対応することができます。
再エネの調達により、原油換算値で年間1500kl等、3つの法規制の基準未満となれば、対象事業者ではなくなり、法規制対応の業務や人件費を省くことができます。企業イメージや投資家からの評価にもつながります。
■注意点
省エネ法で認められているバイオマス発電については、日本の木質ペレットの輸入が急増しており、必ずしも持続可能な形で生産された木質ペレットではないことが問題となっています。
端材を原料にした国産材とは異なり、熱帯雨林の伐採につながる可能性もあり、輸送や加工段階でも温室効果ガスが発生し、生態系も破壊している可能性があります。
参照:【バイオマスオンラインセミナー第5回】石炭火力へのバイオマス混焼 FoE Japan
最後に
温室効果ガス削減をするための、再エネの調達は、コスト高になりがちですが、省エネ法や温対法、東京都の場合は総量削減義務で認められる形で調達すれば、コンプライアンスの負担を削減し、コストを抑える側面もあることがわかります。
今回ご紹介した法律の最終的な目標は、地球の平均気温上昇を1.5度未満に抑えることです。現時点の日本では2050年までの温室効果ガス0を目指すことになっていますが、IPCCの最新の報告などで、2050年という期限が早まる可能性もあります。
現時点の法規制は、温室効果ガスを2050年に0にするのに十分とは言えません。今後、関連する法律の改正や、カーボンプライシング関連など、新たな法規制が出てくると考えられます。
そんな中、振り回されずに企業として脱炭素化の事業計画を立てるためには、各法規制の要点を抑えたうえで、使用するエネルギーがどのように作られたものか正確に把握し、本当に温室効果ガスの排出を削減できているか見定める必要がありそうです。