皆さんは、【カーボンニュートラル】や【カーボンゼロ】などの用語の区別ができていますか?
最近、新聞やニュースなどでカーボンニュートラル、カーボンネガティブ、カーボンネットゼロなど、脱炭素化の取り組みに対して、様々な表現がされています。それらの言葉に定義や使い分けがあるのでしょうか。
今回は、それぞれの言葉の意味と重要性について解説いたします。
目次
【カーボンニュートラル】ってどういう意味?【ネットゼロ】とどう違うの?
まず、使用される機会の多い「カーボンニュートラル」という言葉について説明します。
カーボンニュートラルは、二酸化炭素の排出を全体としてゼロにする、という意味です。
「排出を全体としてゼロにする」というのは、CO₂の排出量から、森林などによる吸収量を差し引いたものをゼロにする、ということを意味します。
また、企業や自治体などがカーボンニュートラルを目指す場合は、二酸化炭素をできるだけ削減する努力をし、その上でやむを得ず排出してしまった排出量を、排出権の購入などによって埋め合わせることが多いです。
環境省に聞いてみた!カーボンニュートラル、ネットゼロなどの違いは?
カーボンニュートラルと同じような意味で、カーボンネットゼロ、カーボンゼロ、ゼロカーボンなどの言葉が使われることがあります。
これらの言葉の定義や使い方は、団体などによって違いがあり、統一されていないというのが実状です。
そこで、環境省の方に、これらの言葉の意味の違いや使いわけについて伺いました。
Q:【カーボンニュートラル】や【ネットゼロ】の意味は違いますか?場面によって使いわけていますか?
A:明確な区別や、使いわけはしていません。
Q:【カーボンニュートラル】や【ネットゼロ】を違う意味として捉えている団体もありますが、それに関してはどう思いますか?
A:確かに、【カーボンニュートラル】と【ネットゼロ】は完全にはイコールではないような気もします。企業が目標を掲げるときには、【ネットゼロ】という言葉が使われることが多い印象もあります。
Q:今後これらの用語の定義づけ、使いわけをする予定はありますか?
A:色々な用語を使っていると混乱を招きやすいので、わかりやすさの意味では統一すべきかもしれない、と考えます。実際、英語では、【カーボンニュートラル】という言葉はあまり使われず、【ネットゼロ】という言葉が使われることが多いです。
Q:昨年の菅総理の2050年排出実質ゼロ宣言は、2050年【カーボンニュートラル】、2050年【ネットゼロ】、2050年脱炭素宣言など様々な形で表現されていますが、どの表現が正しいのでしょうか。
A:環境省は、「2050年カーボンニュートラル」と表現しています。「2050年カーボンニュートラル」は、メタンやフロンなどの温室効果ガス全体に関して森林などの吸収を差し引いてゼロにすることです。
【カーボンニュートラル】は、厳密には二酸化炭素の排出を全体としてゼロにするという意味なので、少し誤解を招きやすいかもしれません。
このように、環境省はこれらの用語を特に区別していません。
カーボンニュートラル、カーボンネットゼロなどは特に断りがない限り、同じ意味として捉えても良いと思われます。
※2050年カーボンニュートラルのように、「カーボン」を含む用語は、二酸化炭素に限らず、温室効果ガス全体を表すこともしばしばあります。
※【ゼロエミッション】という言葉も、人間活動による廃棄物を限りなく0に近づける意味合いで使われることが多いですが、「環境に負荷をかける物質=温室効果ガス」、という解釈で、温室効果ガスを削減する際に使われることがあるようです。
参考:経産省 「ゼロエミ・チャレンジ」
■改正された温対法に記載された【脱炭素社会】とは
「人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。」※温対法 第2条の2 より抜粋
カーボンオフセットって?
オフセットとは、英語で「差引き勘定する、相殺する」などの意味を持つ言葉です。
「カーボンオフセット」は、この言葉に基づいて、企業や自治体などが、自ら排出した二酸化炭素を、森林吸収や他で削減した分で相殺しよう、という考え方(取り組み)です。
カーボンオフセットの特徴は「クレジット」というものを導入していることです。
クレジットは、カーボン・クレジット(温室効果ガスの排出削減量・吸収量=環境価値)ともよばれます。 森林吸収や再生可能エネルギー等で削減した二酸化炭素量を価値化したものです。
カーボン・オフセットに用いるカーボン・クレジットを信頼性のあるものにするため、国内の排出削減活動や森林整備などによって生じた排出削減・吸収量を認証する制度ができました。それがJ-クレジット制度です。
環境省の【カーボン・オフセット制度】のガイドライン【カーボンオフセット・ガイドライン】では、下記のクレジットが認められています。
※環境省の【カーボン・オフセット制度】では、非化石証書やグリーン電力証書は認められていません。
◆非化石証書とは、
化石燃料を使わず発電された電気の、環境価値だけを切り離したもの。
・FIT制度を利用したFIT非化石証書(再エネ指定)と、
・FIT制度を利用していない非FIT非化石証書(再エネ指定)と、
・原子力発電を含む非FIT非化石証書(指定なし)がある。
◆グリーン電力証書とは
自然エネルギーにより発電された電力の環境価値だけを、第3社認証機関の認証のもと、取引可能な証書にしたもの。
※カーボンオフセットは、排出量取引制度に類似していますが、排出量取引制度とは違い、登録されると無効化手続きされるため、転売はできません。
脱炭素化を実現する上では、自らが排出する二酸化炭素の量を削減することが一番望ましいですが、どうしても削減が困難な部分があるのではないでしょうか。
その排出分を、カーボンオフセットにより埋め合わせすることができます。
しかし、この手法では、日本や世界全体の温室効果ガス排出量を最終的に0にすることはできません。あくまでも、技術開発やインフラ設備が整うまでの移行期間内での活用というのが、世界の脱炭素化を進める上での見方となっています。
◆Jクレジットについて
出典:J-クレジット制度 ウェブサイト
ネガティブエミッションって何?開発が進むBECCSやDAC!
ネガティブエミッションとは、大気中へのCO₂の排出量をマイナスにすること、つまり大気からCO₂を吸収することを言います。
これを実現する技術(ネガティブエミッション技術)には、
- BECCS(CO2回収・貯留(CCS)付きバイオマス発電:Bioenergy with Carbon Capture and Storage)
- DAC(直接空気回収:Direct Air Capture)
などがあります。
この他にも、ネガティブエミッションの例として海洋吸収や植林面積の増加などがあります。
BECCS
BECCSは、バイオマス発電とCCSを組み合わせた技術です。
これが、なぜネガティブエミッションとなるのでしょうか。
まず、バイオマス発電は、カーボンニュートラルな発電方法と考えられています。
バイオマス発電の際に燃焼される植物は、地表で生きているときは、CO₂を取り込みます。
そのような植物が刈り取られ、燃焼利用されると、CO₂が排出されます。
この、植物が地表で生きている状態から、燃焼利用された後の状態までの一連の流れを考えると、CO₂の排出量は±0になります。これがバイオマス発電がカーボンニュートラルな発電方法と呼ばれる所以です。
また、CCSはCO₂を分離・回収して貯留する技術のことです。
バイオマス発電にこのCCS技術を組み合わせると、バイオマスは生存中は大気のCO₂を吸収し、その後の燃焼によって大気中へ排出されるCO₂は貯留されるため、全体としてマイナスの排出となります。
DAC
一方、DACは、その名の通り空気中から直接CO₂を回収する技術です。DACは、植物に頼らず、吸着剤などを利用してCO₂を吸着させ、それを貯留することで大気中からCO₂を減らします。
この技術の利用の際に問題となるのが、そのコストです。DACの運用コストは未だはっきりとわかっておらず、その推定値には大きな幅があります。
参考:Putting Costs of Direct Air Capture in Context, Forum for Climate Engineering Assessment
エネルギー総合工学研究所と東京大学の共同調査によると、DACの運用コストの試算は、組織によって大きく違い、10~1000USD/t-CO₂(おおよそ1000円~10万円/t-CO2)の幅があるとされています。
参考:「カーボンニュートラル」って何?脱炭素社会に生きるための基礎知識
マイクロソフト社が広めた、「カーボンネガティブ」!
カーボンネガティブとは、経済活動によって排出される二酸化炭素よりも、大気から吸収する二酸化炭素の量の方が多いという状態のことを言います。
この言葉は、マイクロソフト社が広めました。
マイクロソフト社が2020年の1月に「2030年までにカーボンネガティブを目指す」と宣言し、カーボンネガティブという概念が注目されるようになりました。
※同社はさらに、2050年までに、1975年の創業以来の自社の直接的及び間接的排出を全て環境から除去する、という目標も掲げており、脱炭素において世界をリードする企業の1つとなっています。
カーボンネガティブは、カーボンネットゼロよりもさらに野心的で、この目標を掲げる企業も増えてきています。
また、カーボンネガティブと同じ意味を持つ言葉として、カーボンポジティブがあります。カーボンネガティブとカーボンポジティブは一見逆の意味として捉えそうですが、実は一緒な意味なので、注意が必要です。
さらに、ビヨンド・ゼロという言葉もカーボンネガティブと同じような意味で使われます。
ビヨンド・ゼロは日本独自の概念であり、カーボンニュートラルに止まらず、その先まで見据えようという意味が込められています。
参考:IDEAS FOR GOOD 「カーボンネガティブとは・意味」
最後に
このように、二酸化炭素に関する用語は数多く存在し、これからも増えていくと考えられます。
わからなくなった時に、この記事を参考にしてください。
カーボンニュートラル カーボンネットゼロ カーボンゼロ ゼロカーボン (ゼロエミッション) | 二酸化炭素の排出を全体としてゼロにする (排出量ー吸収量=0) |
カーボンオフセット | 排出量をできるだけ削減し、削減が困難な部分をクレジットを購入して埋め合わせること |
ネガティブエミッション | 大気からCO2を吸収すること |
カーボンネガティブ カーボンポジティブ ビヨンド・ゼロ | 排出される二酸化炭素よりも、大気から吸収する二酸化炭素の量の方が多い状態 |