弊社が参加するRE Actionの紹介で、レース・フォー・ウォーターを見学に行く機会がありました。
レース・フォー・ウォーターとは、2010年、海洋保全に力を注ぐスイスの起業家マルコ・シメオーニが創設した「レース・フォー・ウォーター財団」の調査船です。
海洋プラスチック汚染に関する世界初のグローバルな科学的・環境的な探索をしています。2017年4月9日、2度目となる5年に及ぶ世界航海を開始しています。航海の動力はなんと、太陽と海と風だけ。
2020年9月25日、そんなレース・フォー・ウォーターが日本の港にやってきました。レース・フォー・ウォーターは見た目も斬新です。
どんな船なのか、プラスチックの在り方についての見解と共にご紹介します。
目次
レース・フォー・ウォーター(RACE FOR WOTER)の特徴
太陽と風と海水だけで世界を航行!
レース・フォー・ウォーターは、800枚(540へーべー)の太陽光パネルが設置されており、1日の最大で700kwの電力を発電することができます。
発電された電力は4tのリチウム蓄電池(745kwh)2本に充電され、余剰分は海水をろ過、分解し水素を発生させ、タンクに圧縮されます。この水素を燃料電池でエネルギーに変えれば、曇りや雨の日が続いても5ノットで6日間走行可能です。
ただ、水素タンクを満タンにするには3か月かかるそうです。そのため、水素を使うのは最後の手段のようです。
また、カイトを使えば、上空150mから200mの風の力を生かして、10ノットで走行可能です。カイトはAIによる自動制御ロボットでコントロールされており、八の字に動かして風の力を最大限に活かすことができます。
風向きが安定していて、港の規制がない場所でないと使えませんが、夜でも動力となります。
「LEARN」「SHARE」「ACT」で海洋保全
世界を旅しながら、3つのミッションに取り組んでいます。
- 「LEARN」(学び)プラスチックによる水質汚染に関する科学的知識の向上に貢献する。
- 「SHARE」(共有)意思決定者に注意を喚起し、一般大衆の意識を高め、若い世代を教育する
- 「ACT」(行動)持続可能で、経済的・環境的・社会的な影響を伴うソリューションを実施・促進する
詳しくはレース・フォー・ウォーターのホームページをご覧ください。
見学したからわかったこと
自然にコミュニケーションが生まれる船内
船内は綺麗でおしゃれな上、いたるところにソファーがあり、人々が語り合えるスペースとなっていました。
太陽光パネルは港に着くと折りたたまれて船の幅は26mから15mになります。パネルにより操縦席から距離感がつかめない為、同乗するスタッフが外に出て、案内しながら船を止めます。
これまでの航行では、フランス人スタッフが6名いましたが、ビザ取得で帰国したきり、コロナ渦で入国できず、フランス人の船長と、イギリス人の副船長以外、日本国内でスタッフを揃えて国内の港を移動しているということでした。
7月の長雨時は、船内の空調を切って、エネルギーを節約したとか。通常の船内電力消費量は3.7kwということでした。
「どんなメンテナンスが必要ですか?」と質問してみました。
バッテリーは結露を嫌うので除湿器で排水をしているようです。また船体に藻が付くと抵抗になるのですぐに落とすようにしている、ということでした。もちろんパネルの清掃も欠かせません。
船内には予備品が積んであり、修理しながら航行しているようです。
※床にあるプラスチックゴミの写真がついた扉を開けると、予備品が収納されている。
■RE Action ホームページ
【開催報告】2050年のサステナブル目標~エネルギーを再エネ100%へ~ 鼎談 on レース・フォー・ウォーター号
日本の現状
2019年にG20で海洋プラスチックごみ対策実施枠組を公開しています。また、環境省では、「プラスチック資源循環戦略」の策定をし、取り組んでいます。
環境省 プラスチック資源循環戦略(概要)
上記資料によれば「2030年までにバイオプラスチックを200万t導入」と記載があります。
バイオプラスチックの原料は主にサトウキビの搾りかすが多いようです。その輸入先はブラジル。ブラジルでは農地拡大による熱帯雨林の伐採が問題視されているので、輸入するバイオプラスチック原料が、持続可能な方法で栽培されたものか、について注意を払う必要がありそうです。
また、バイオプラスチックは生分解性プラスチックとは違い、自然界で分解されません。バイオプラスチックであり、なおかつ生分解性プラスチックである素材もありますが、分解速度や価格等、課題があり、普及は限定的となっています。
バイオプラスチックは温室効果ガス排出削減や脱炭素の対策として有効な手段ですが、海洋プラスチック汚染の解決策にはなりません。間違えやすいですが、分けて考える必要があります。
改善へのアイディア
生分解性プラスチックに変えていく。
植物由来の生分解性プラスチックであれば、時間経過と共に分解されるため、循環型社会を構築する上でも解決手段の一つと考えられます。
【食べられる!海藻からできたプラスチックhttp://www.ecoist.life/ 】も登場するなど、これからの商品開発に期待が高まります。
これからの買い物は、何でできたプラスチックか(バイオプラスチックか生分解性プラスチックか)紙か、などアンテナを張ってみていきたいものです。
また、レジ袋有料化に伴いビニール袋から紙袋に変えるお店も増えましたが、紙袋の材料が再生紙や持続可能な方法で栽培された原料か否かも、循環型社会を進める上では重要な確認ポイントです。
※生分解性プラスチック=原料は石油由来や植物由来含む。自然界で分解される性質を持つ。
※バイオプラスチック=原料が植物由来のプラスチック。自然界で分解されないものも含む。
※脱炭素を達成し、海洋生物の保全に適するのは、バイオプラスチックであり、生分解性プラスチックであることが理想的。
※2020年7月、レジ袋の有料化が義務となりましたが、バイオマスプラスチック配合率が25%以上のものは有料化の対象から除外されています。
海岸の清掃
浜辺にリサイクルステーションを設置し、ごみを投入したらポイントがたまる仕組みを作ってはどうでしょうか。
(子供と海水浴に行ったとき、ごみを拾いましたが、量も多く、持ち帰るのが大変でした。浜辺に回収ステーションがあったら、拾う人も増えるのではないでしょうか。また、ポイントがたまって、地域振興券のようにできたら、本人と地域のメリットにもなるのではないでしょうか)
ゴミが集まる海上で、ごみ発電&残差無害化処理場を建設してしまう?!
海洋プラスチックは海流により、ゴミベルトと呼ばれる場所に集まる傾向があります。ごみが集まる場所がある程度特定できているなら、そこに移動式の海上ごみ発電、再処理施設を建設し、流れ着くゴミを原料として、発電し、その電力で残差を生き物の害にならないような大きなブロックに加工し、海に戻す、というのはできないものでしょうか。
リサイクルプラスチックの需要を増やす
家庭から排出される容器の処理を仲介している容器包装リサイクル協会に「廃プラスチックからできたリサイクル商品の需要と供給について」伺ったところ、需要は減っているということでした。
中国の輸入規制で産業用の廃プラスチックが余っており、その廃プラスチック製品が流通しているため、それより質の低い家庭から出る廃プラスチック製品は需要が減っているそうです。
海のプラスチックを回収し、再資源化するだけでなく、そこから作り出されたものを積極的に活用していく仕組みが必要だと感じました。
全国各地で廃プラスチックから様々な製品が作られています。こうした資材を購入したい場合は、こちらをご確認いただき、お問い合わせください。
■再商品化事業者一覧(容器包装リサイクル協会ホームページより)
最後に
台風やサイクロン、洪水などの自然災害により、意図せず風に飛ばされたり流されたりすることも多いため、海洋プラスチック汚染は個々の責任や取り組みに任せるだけでは限界があるのかもしれません。
解決につながる仕組み、技術、アイディアを出し合い行動して、美しい海や生き物を次の世代に残していきたいものです。
一番シンプルな解決策は、プラスチックを貰わない、買わない、使わない、捨てないことです。私たちの周りには、コンビニのお弁当、レジ袋、自動販売機のペットボトルなど、一度しか使わないプラスチックがあふれています。
生活の中でプラスチックを0にするのは難しくても、安易に貰ったり購入したりする頻度、割合を減らすことが、プラスチックゴミの削減に大きく貢献すると考えます。