持続可能な社会への転換が求められる中、水素への期待が高まっています。経済産業省は2019年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、世界に先駆けて「水素社会」を実現させようとしています。
太陽光発電や風力発電で発電したものの、建物内では使いきれない”余剰電力”を有効利用するために水素を活用するための東京都の補助金【事業所向け再生可能エネルギー由来水素活用設備導入促進事業】に関連する内容となっております。
再生可能エネルギーによる発電と余剰電力
太陽光・風力などの再生可能エネルギーは、化石燃料に依存しない持続可能でクリーンなエネルギーとして、世界中で注目されています。ただし、発電量が気象に左右されるというデメリットを抱えています。
太陽光を例にとると、晴れた日の昼間は大量に発電できるにも関わらず、夜は発電できません。晴れた日の多い春には発電量が増えますし、雨の多い梅雨には発電量は減ります。
下の図は2017年4月30日の九州の電力需給を示しています。
2017年4月30日の九州の電力需給実績
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_syuturyokuseigyo.html
出典:資源エネルギー庁
このように、太陽光発電が活発に行われる日の発電量は、需要(赤線)を超えます。このような事態が発生した場合には太陽光発電をする事業所に対して、「出力制御」が実施されることがあります。この時、各家庭や事業所の太陽光発電で余った電力は売ることができず、無駄になってしまいます。
蓄電池を導入することで、この余剰電力を蓄え、発電量が減った時に利用したり、売ったりすることができます。ただし、大容量の蓄電池は高価であるうえ、蓄電池は自己放電してしまうため、長期間の貯蔵はできません。
そこで、水素を活用することが期待されています。
Power to Gas:エネルギーを水素として蓄える
水素は水などを原料として電気を用いて簡単に製造することができるため、余剰の再生可能エネルギー電力(power)を水素(gas)に変換して貯蔵する、Power-to-Gasという方法が注目されています。再生可能エネルギーの電力供給が足りないときに、貯蔵した水素から電力を補充できる体制を整えることで、発電量の調節が容易という点で重宝されている火力発電への依存度を下げることが可能となります。
「電力を水素に変換して貯蔵」とはどういうこと?
私たちが「電力」や「電気」と呼び、普段から利用しているものは、【電気エネルギー】のことです。
一方で、「水素としてエネルギーを貯蔵する」の「エネルギー」は【化学エネルギー】と呼ばれるエネルギーの形態であり、これは【水H2O】と【酸素O2+水素H2】の持っているエネルギーの差のことです。
2H2+O2→2H2O+【エネルギー】
水素を空気中の酸素と反応させると水とエネルギーが発生します。
燃料電池は、この時のエネルギーを電気エネルギーとして取り出す装置です。逆に、水に電気エネルギーを与えると、水を酸素と水素に分解することができます。このようにして、いつでもエネルギーを発生させることのできる水素を作ることを、「電力を水素に変換して貯蔵する」と表現しているのです。
2H2O+【エネルギー】→2H2+O2
水素社会の展望
水素を燃料とする発電は水以外の物質を生成しないクリーンな発電方法として注目されています。都内でも水素を燃料として利用し走行する、燃料電池バスが実際に運用されているなど、私たちの日常の中でも水素のエネルギー源としての利用がみられるようになってきています。
水素を利用した発電は地球環境に優しく、発電効率も良いのです。
環境問題への関心が高まる中、経済産業省は「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、水素製造の低コスト化と水素サプライチェーンの実現に向けて力を入れて取り組んでおり、水素の活用はさらに推進されていくと考えられます。
ただし、水素は生産方法によっては生産の際にCO2やNOxといった温室効果ガスを発生してしまいます。現在主流の石油・天然ガスを利用して生産するのはこの最たる例です。
上述の、再生可能エネルギーによる発電の余剰電力を用いた水素の生成は、生産の過程でのCO2排出がほとんどないため、グリーン水素(CO2フリー水素)として注目されています。
グリーン水素
再生可能エネルギー由来の水素で、製造時にCO2排出がほとんどないものを「グリーン水素」と呼んでいます。このグリーン水素と、製造の際に発生するCO2を回収して地下に貯留して大気への排出を0にする水素(化石燃料由来)を総称してCO2フリー水素と呼ぶことが多いです。
つまり、グリーン水素は化石燃料に依らない、持続可能性の高い水素なのです。
東京都では「事業所向け再生可能エネルギー由来水素活用設備導入促進事業」を実施しています。この事業では、再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変換し、利用するための設備の導入費用の最大1/2を支援する助成金を交付しています。
本年度の募集は9月30日で締め切られてしまいましたが、脱炭素化に向けて、水素関連の推進事業は今後も継続される可能性が高いです。令和3年度の補助金情報については今後の公開をお待ちください。