SBTiは2024年4月9日、ひとつの声明を発表しました。
その内容は、「SCOPE3の削減に限定した環境属性証明書の使用について」。今回は、この声明についてご紹介します。
声明の内容と経緯
SBTiは2024年1月、ネットゼロ基準を2025年に改定する可能性があると発表しました。この改定には、SCOPE3排出削減の取り組みに関する新たなガイダンスを追加することも盛り込まれています。
今回の声明では、幅広い協議を行った結果、科学的根拠に基づいた方針、基準、手順によって適切な裏付けがあれば、環境属性証明書(EAC)がSCOPE3の排出量を減らすための新たなツールとして機能する可能性があると結論付けました。
これに伴い、SCOPE3排出量の削減を目的とした場合に限って、EACの利用を拡大する決定をしました。
SBTiは声明で、EACの利用拡大は、企業はイノベーションと技術向上によって炭素排出を根本的にゼロにする道を切り拓くとともに、クレジットによる「補償」によってバリューチェーンの脱炭素化も加速する方法であると述べています。
基本規則などをまとめた最初の草案が2024年7月までに公表され、公開協議と技術審議会による審査、理事会による採択を経て最終的に決定されるとのことです。
環境属性証明書(EAC)とは
ところで、文中であまり聞き馴染みのない「環境属性証明書(EAC)」という言葉が出てきましたが、これはいったい何なのでしょうか。
EACは Environmental Attribute Certificates(環境属性証明書)の略で、電力が持つ属性(いつ、どこで、どの発電方法で、どのくらい発電したかなど)を記した証明書のことです。Energy Attribute Certificates(エネルギー属性証明書)と表記されることもあります。
日本では、I-RECという証明書がこれに当てはまり、2023年から取引できるようになっています。I-RECは世界50か国以上で取引されている証明書で、2021年度には全世界で63TWh(1TWh=10億kWh)分の証書が発行されています。
I-RECは電気が作られた場所や方法、時間、誰が使ったかまでが全世界共通のデータベースに記録されています。そのため証明書の追跡、事実監査が簡単にできるほか、属性を見て証明書の購入ができるため、地域に貢献している発電所等を選んで購入することができます。
参照:一般社団法人ローカルグッド創成支援機構:日本でのI-REC発行について(概要)
おわりに
今回は、EACがSCOPE3算定に使えるようになる、というSBTiの声明についてご紹介しました。
今回の声明は、SCOPE3に環境属性証明書が使えるようになる、という内容のみで、具体的にどのクレジットが使えるようになるのかなどは分かりません。日本国内で使用されている「J-クレジット」や「非化石証書」などが使えるのかなど、詳しいことは7月の草案で明らかになると思われます。
多くの企業で課題になっていると思われる、SCOPE3の削減。今回の声明は、カーボンニュートラルに向けた新たな道筋を示すものかもしれません。
今後の展開に期待しつつ、情報公開を待ちたいと思います。