2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出量の多いエネルギー転換部門や産業部門、運輸部門では様々な取り組みが行われています。
一方で、民生部門も日本のCO2排出量の13.2%を占めるにもかかわらず、あまり脱炭素の取り組みが広く知られていません。
環境省では、民生部門の脱炭素化に向けて、2022年から「脱炭素先行地域」の取り組みが始まりました。
この記事では、脱炭素先行地域とは何か、実際の地域の取り組み計画の事例についてご説明いたします。
目次
脱炭素先行地域って何?
脱炭素先行地域とは、
・民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出を2030年までに実質ゼロ
・運輸部門や熱利用等を含めたそのほかの温室効果ガス排出の、日本の2030年度目標と整合する水準での削減
を実現する地域のことを指します。
民生部門の脱炭素について
民生部門のCO2排出量は、2030年までに家庭部門で66%、業務その他部門で50%と、他部門よりもより一層の対策が求められています。
また、民生部門の電力は、再エネなど今ある技術でCO2排出実質ゼロを実現する事が可能であるため、脱炭素先行地域においては、2030年に前倒しして民生部門の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロが求められています。
脱炭素先行地域は、全国に脱炭素の地域社会の実現を広めていくためのモデルとして位置付けられています。
脱炭素先行地域の取り組みの背景
日本は、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度から46%削減することを目指すことを掲げています。
この目標の達成のために、国・地方脱炭素実現会議が設置され、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現を目指し、「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。
「地域脱炭素ロードマップ」では、地域脱炭素が、意欲と実現可能性が高いところからその他の地域に広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」を起こすべく、今後5年間を集中期間として施策を総動員するとされました。
そして2030年以降も全国へと地域脱炭素の取組を広げ、2050年を待たずして多くの地域で脱炭素を達成し、地域課題を解決した強靭で活力ある次の時代の地域社会へと移行することを目指すとされました。
脱炭素先行地域とはその名の通り、地域脱炭素の取り組みを全国に広げるべく、先駆者として認定された地域です。
46か所ってどこ?どのように決まるの?
脱炭素先行地域の選定
※参照:環境省 脱炭素先行地域(第2回)選定結果について
脱炭素先行地域は最終的には少なくとも100ヶ所以上が認定される予定ですが、現時点では46の地域が選定されています。(2023年2月現在)詳しくは、上記環境省リンクをご確認ください。
選定対象団体は第2回までに129団体あったようなので、選ばれなかった地域が83団体あります。選ばれなかったとしても、脱炭素先行地域にするにはどうしたらいいのか、を検討する機会は、全てできなくても、脱炭素化に取り組むきっかけにつながるように感じます。
1つの県で3,4都市選ばれている地域もあれば、選ばれていない地域もあります。それぞれの地域で、どんな計画を立てているのか、その地域独自の取り組みだけでなく、他の地域へ普及できる取り組みも期待できます。
現在第3次募集の選定途中で、2023年5月には第4次募集が開始される予定です。
どうすれば応募できるのか、については、3回目の募集詳細をご確認ください。
選定における評価項目について
脱炭素先行地域として応募した地域が実際に認められるためには、評価委員会により選定されなければなりません。
脱炭素先行地域の選定にあたっては、相応しい再エネ導入量であることや、地域の課題解決と脱炭素を同時実現して地方創生にも貢献することなどが重要視されています。
具体的には、下記の8つの要件について評価され、評価の高いものが選定されます。
- 2030年度までの地域内の民生部門の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロの実現及び地域特性に応じた温暖化対策の取り組み
- 再エネポテンシャル等を踏まえた再エネ設備の最大限の導入
- 脱炭素の取り組みに伴う地域課題の解決や住民の暮らしの質の向上
- 脱炭素先行地域の範囲・規模の特定
- 計画の実現可能性
- 他地域への展開可能性
- 取り組みの進捗管理の実施方針及び体制
- 改正地球温暖化対策推進法に基づく地方公共団体実行計画の策定等
2030年の民生部門の電力消費のCO2排出ゼロ実現はもちろん、「脱炭素ドミノ」につながる先進性やモデル性、実現可能性、地域特性との親和等が求められているようです。
脱炭素先行地域のメリットは?上限50億/計画
国が脱炭素先行地域を推進したいことは理解できますが、実際に選定された地域にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
そのメリットは、大きく分けて二つあります。
支援金
※参照:環境省 脱炭素先行地域(第2回)選定結果について
一つ目のメリットは支援金が受けられることです。
「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、脱炭素事業に意欲的に取り組む地方公共団体を支援するために、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金という支援金が設けられています。
この支援金は「脱炭素先行地域づくり事業」と「重点対策加速化事業」の二つについて適用されていて、前者の「脱炭素先行地域づくり事業」については、脱炭素先行地域のみが受けられることになっています。
この支援金は再エネ設備、基盤インフラ設備、省CO2設備などに対して支援をするもので、最大50億円の支援金を受け取ることができます。
このような経済的な援助を魅力として感じ、脱炭素先行地域に名乗りを挙げた地域も少なくないでしょう。
地域社会の活性化
二つ目のメリットは、脱炭素事業を行うことにより地域社会の活性化につながる、という間接的なメリットです。
日本は資源に恵まれていないため、エネルギーのもととなる鉱物性の燃料は主に輸入に頼っています。
この理由から、およそ9割の自治体でエネルギー収支が赤字である、という実態があります。
これに対して、再エネを導入することで、再エネの販売による資金を稼げるだけでなく、従来のエネルギーの代金や原材料調達の代金の流出を減らすこともでき、地域経済の活性化につながります。
脱炭素先行地域の取り組みを通して、地域の雇用や資本を活用しつつ再生可能エネルギーの導入拡大をすることで、地域の経済収支改善や地方創生につなげることが期待されます。
各地域の取り組み計画の事例
最後に、脱炭素先行地域として既に選定されている地域の実際の取り組み事例をいくつか紹介いたします。
尼崎市 〜ゼロカーボンベースボールパーク整備計画〜
尼崎市は兵庫県東南部に位置する市で、大阪府に隣接しています。
尼崎市は、人口減少が進む市の南部の大物地域の小田南公園に、プロ野球球団である阪神タイガーズのファーム(二軍)施設が移転することに合わせて、公園内の野球場や練習場等の施設の脱炭素化を進める取り組みを行っています。
具体的には、野球場及び室内練習場に太陽光発電(計710kW)と蓄電池を導入し、最大限自家消費することを目指すとしています。
また、選手寮兼クラブハウスについては、ZEB Ready(※)にすることが目標として掲げられています。
さらに、ゼロカーボンベースボールパークとして公園内や試合の中で脱炭素の取り組みを周知することや、ゼロカーボンナイターを開催することも予定されています。
※ZEBとは、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスである建築物のことです。
また、ZEB Readyとは、ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率なエネルギー設備を備えた建築物のことを言います。
山口市 〜ゼロカーボン中心市街地〜
山口県山口市では、中心市街地エリアが脱炭素先行地域として選定されています。
この地域の取り組みは、市街地の商店街において、消費電力量やCO2排出量を見える化し、さらに市民ファンドと連携したエコポイント制度の活用により市民や観光客の行動変容を促す、というものです。
商店街の消費電力量やCO2排出量の見える化には、EMS(エネルギーマネジメントシステム)が導入される予定です。
EMSは、センサーやカメラを用いた情報収集によりエネルギー使用状況を把握し、その情報を蓄積・解析することにより、エネルギー消費効率を最大化できるシステムです。
また、エコポイント制度に関しては、ナッジを活用して、利用者の属性に応じた情報発信を行い、省エネ行動に対して商店街で利用可能なエコポイントを付与する、という仕組みになっています。
ナッジとは、行動経済学の知見を活用して、人々が自分自身にとってよりよい選択を自発的に取れるよう手助けする手法のことです。
環境に即した文脈で用いられる場合、低炭素型の行動変容を促すこと、という意味になります。
京都市 〜ゼロカーボン古都モデル〜
京都市は、文化遺産100ヶ所以上を脱炭素化し、脱炭素化した寺社をEVタクシーで巡るセロカーボン修学旅行を実現することを目標としています。
また、大学などのグリーン人材育成拠点の脱炭素化にも力を入れています。
ゼロカーボン修学旅行や大学等の人材育成拠点の脱炭素化によって、修学旅行生や大学生の出身地域へ取り組みを広げる波及効果が期待できます。
■その他の各地域の計画の詳細についてはこちらをご覧ください。
環境省 第2回 脱炭素先行地域の概要
最後に
※参照:環境省 脱炭素先行地域(第2回)選定結果について
脱炭素先行地域は民生部門の脱炭素化に向けた動きを全国の自治体に広げるための重要な取り組みです。
これらの取り組みは、自治体だけで進めている地域もありますが、多様な共同提案者とともに計画を策定し、進めている事業が多くみられます。
一人では到底できない取り組みも、周りを巻き込み、様々な協力者と共に、進めれば進めるほど、双方に意識改革やアイディアの化学変化が起き、よりよい取り組みになっていくのではないかと感じます。
それは一市民として参加することもできますし、一企業として、また、一市民団体として参加することもできます。
第4回の募集期間は令和5年8月頃を予定しているようです。脱炭素化だけでなく、地域活性化や人のつながりを通して、やりがいや幸福感につながっていく可能性もあります。
現在はまだ地域の選定途中であり、本格的に始動しておりませんが、今後は目を離せない取り組みとなりそうです。