私たちが生活の中で何気なく使っている冷蔵庫やエアコンですが、電力の消費の観点から、極力エアコンを付けないようにしている、また冷蔵庫はなるべく早く閉めるようにしている、という方は少なくないと思います。
ただ、これらが環境に与える影響は、電力消費に限りません。冷蔵庫やエアコンに用いられる「冷媒」の環境負荷が大きいからです。
この記事では、この冷媒の中でも、環境に優しい「CO₂冷媒」について解説いたします。
CO₂冷媒って何?
冷媒とは、熱を温度の低い所から高い所へ移動させるときに使われる物質です。圧力をかけることで液化・放熱、気化・吸熱を繰り返すため、冷蔵庫やエアコンに用いられています。
冷媒としての機能を持つ物質は多く、その中でも最も有名なものがフロンです。ただフロンはオゾン層破壊が問題視され、現在はオゾン層を破壊しない代替フロンが使用されています。
代替フロンは、地球温暖化係数が非常に高いことが問題となっています。そのため、フロン以外の物質(ノンフロン)を冷媒として用いよう、という動きが活発化しています。これがノンフロン冷媒です。
ノンフロン冷媒の中でも、自然界の中に元々存在している物質を使った冷媒のことを、「自然冷媒」といいます。この自然冷媒にはアンモニアや水、CO₂があります。
CO₂冷媒とは、オゾン層を破壊しないノンフロン冷媒の中の、自然冷媒の一つです。
地球環境に負荷を与えない冷媒の活用に向けて、挑戦が進められています。
※出典:環境省 経産省 代替フロンに関する状況と現行の取組について
※グリーン冷媒とは、明確な定義はなく、自然冷媒を含むノンフロン冷媒や低GWPのフロン類を指します。
実際の業務用空調機設置作業で使われている冷媒は?
年間1300件以上の業務用空調機の設置に関わっている弊社が、設置作業の際に使用している冷媒は、代替フロンであるR410A(地球温暖化係数2090)と、R32(係数675)という種類です。※各メーカーの各機種指定の冷媒を充填しています。
規模が小さな機器は、温暖化係数の高いR410Aから、R32に順次置き換わっています。ただ、規模の大きい機器については、R32を使用できる認可が下りず、R410Aのままです。
空調機メーカーの要請で、R32を使用できる範囲は増えたようですが、使用は限定的となっています。
地球温暖化係数って?
二酸化炭素の温室効果を1としたときの、各物質の温室効果の程度を数値にしたもの。
例えば、メタンの地球温暖化係数は25で、これは、メタンの温室効果が二酸化炭素の25倍であることを示す。
「温室効果が大きい」というのは、地球温暖化係数が大きいことを指す。
CO₂冷媒を使うことは本当にエコになるの?
※出典:環境省 令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会
CO₂冷媒とは、ノンフロンの自然冷媒の一つで、二酸化炭素は、自然冷媒の中でも、無臭で毒性・可燃性がなく、安全性が高いといった利点が多いため、コンビニやスーパーのショーケース、さらには飲料用自動販売機など、幅広い用途で使われています。
ただ、二酸化炭素は、地球温暖化を引き起こす物質として広く知られており、その排出を抑えることに世界中が躍起になっています。それなのに、CO2を使うことは本当にエコになるのでしょうか?
結論から言いますと、エコになります。その理由は、地球温暖化係数が小さいからです。
二酸化炭素の地球温暖化係数は、その定義から1ですが、代替フロン類の地球温暖化係数は数千〜1万です。
代替フロン類は、二酸化炭素とは比べものにならないほど地球温暖化を引き起こす効果が大きい、と言うことです。
二酸化炭素は世界中で莫大な量が排出されており、そのため地球温暖化の主要な原因となっていますが、実は他の気体と比べると、二酸化炭素の温室効果は小さいです。
このことから、代替フロン類などの温室効果が大きいガスの代わりにCO₂を使うことは、相対的に環境に良いと言うことができます。
また、CO₂冷媒は、様々な場所で排出されているCO₂を有効に利用する数少ない手段の1つとして、普及が推奨されています。
温暖化係数を下げる必要はあるの?
エアコンや冷蔵庫などに用いられる冷媒は、基本的に使用中に排出されることはなく、機器の内部に留まっています。
このことから、エアコンや冷蔵庫が使用後に正しく解体され、冷媒が回収されれば、大気中に排出されることはありません。
もし、冷媒の回収をこのように完璧に行うことができれば、冷媒の温暖化係数を気にする必要はなくなります。
しかし、実際は、使用中の冷媒のガス漏れや修理時・回収時の漏れなどから、大気中に多くの代替フロン類が放出されています。
※出典:環境省 令和3年度改正フロン排出抑制法に関する説明会
日本では、フロン排出抑制法など、フロン類の回収・破壊について定めた法律があります。それでも、2021年の環境省の統計によると、2020年の廃棄時のフロン回収率はおよそ40%であり、依然としてかなり低い数字となっています。
また、国立環境研究所の調査によると、東日本大震災の際には、建物の製品中に含まれていた代替フロン類が大気に大量に排出されてしまいました。
出典:国立環境研究所 「東日本大震災に伴うフロン等の大量排出」
今後も、集中豪雨や地震などの災害により建物が破壊される際に、冷媒が大気に放出される可能性があります。
これらの理由から、使用する冷媒を完璧に回収する、ということは不可能であり、大気に放出される前提で考えなければなりません。
このような背景により、地球環境保護の観点から、代替フロン類以外の物質(ノンフロン)や自然冷媒を活用しようという動きが活発化しています。
自然冷媒の長所・短所
自然冷媒には、環境に良い、というだけでなく、様々な特徴があります。
【 自然冷媒 】 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
CO₂冷媒 | ■ 無臭・無毒 ■ 安全性が高い ■ 単位体積当たりの運ぶ熱量が高く、 圧縮機や配管径を小さくできる ■ 高いCOP(エアコン、冷凍機などの エネルギー消費効率を表す指標)が実現できる | ■ 圧力が高く、機器に高い耐圧性が必要 ■ 超低温の冷却は不可能 |
アンモニア冷媒 | ■ 使用冷媒量が少量で済む ■ フロン系冷媒と比較すると、冷凍・冷蔵・空調用の温度でのCOPが良い | ■ 毒性、刺激臭、爆発性、腐食性 |
水冷媒 | ■ 無害・無臭 ■ 圧縮機が不要 ■ 可燃性がない ■ 太陽熱や排熱を利用して冷水を製造できる | ■ エネルギー効率がそれほど良くない |
※参照:
日本熱源システム株式会社 CO2冷媒の特性
環境省 自然冷媒冷凍空調機器
二酸化炭素を始めとする自然冷媒に共通する短所として、それらを使用した冷凍・冷蔵装置は、導入費用が高く、普及が進みにくいと言うことが挙げられます。
そのため、日本冷媒・環境保全機構では、「脱フロン・低炭素社会の早期実現のための省エネ型自然冷媒機器導入加速化事業」によって、自然冷媒機器の導入に対する補助金を交付しています。
第4次の応募は11月末に終わってしまったので、現在は応募を受け付けていませんが、今後も補助金援助が続く可能性はあります。
自然冷媒を用いた業務用冷凍冷蔵機器を導入しようと考えている企業の方は、この支援事業を活用してみてはいかがでしょうか。
詳しくは、以下をご参照ください。
最後に
今後、より温暖化係数が低い代替フロンの開発、機器更新時の切り替えと、CO₂冷媒といった自然冷媒の普及が重要となってきます。
CO₂冷媒は、自動販売機や飲料用ショーケースなど、様々な用途に使用されており、普及が広がっています。
弊社は冷凍、冷蔵機器やショーケースを取り扱う機会は多くないのですが、提案する際はCO₂冷媒といった選択肢を考慮に入れて、認知度の向上や普及につなげて参ります。
この記事で出てきた環境用語をサクッと復習!
フロン | 従来、エアコンや冷蔵庫の冷媒として用いられてきた物質。環境負荷が大きいことから、使用の廃止が進んでいる。 |
特定フロン | フロンの中でも、CFCとHCFCのことをいう。オゾン層破壊を起こす。 |
代替フロン | フロンの中で、HFCのことをいう。オゾン層は破壊しないが、温室効果が大きい。 |
自然冷媒 | ノンフロンの中でも、自然界の中に元々存在する物質のこと。代表的なものに、二酸化炭素、水、アンモニアなどがある。 |
地球温暖化係数 | 二酸化炭素の温室効果を1としたときの、各物質の温室効果の程度を数値にしたもの。 |
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