弊社は、環境省の【TCFDを活用した経営戦略立案のススメ】というガイドブックをもとに、TCFDの要求項目の開示に挑戦しています。
まずはシナリオ分析について調べていく中で、「テンプレートが欲しいね」ということになりました。そこでガイドブックの事例に共通する6つのステップを抽出し、再現して、記入できるテンプレートを作成しました。
今回は①準備と設定 ②リスク重要度評価です。
追って③シナリオ群の定義 ④事業インパクト評価 ⑤対応策の定義 ⑥文書化と情報開示 のテンプレートを順次掲載致します。
弊社と同じようにTCFDのシナリオ分析から挑戦したい企業様にも、お役に立てるのでは?と思い、共有いたします。社内提案時の参考程度に、良かったら下書き用にでもご活用ください。
◆気候危機のリスクを、企業価値に反映する手法【TCFD】とは?
◆TCFD義務化?!TCFDとシナリオ分析、SCOPEとの関係は?
目次
1,準備と設定
経営層へTDFDを理解してもらう
TCFDは財務報告書等で開示する資料となるため、経営層への理解や承認、同意が必要となります。
- TCFDとは何か
- 投資家からどのような要請があるのか
- 将来の変化に柔軟に対応する必要性
- 将来について主観を排除した議論の必要性
- 事業のレジリエンス
これらの解説がまとまっている資料を環境省が公開しています。上司や経営層に提案する際、参考資料として活用することができます。
◆環境省 TCFD概要資料
シナリオ分析実施体制を構築
TCFDの核となるシナリオ分析では、考えうるリスクの抽出や、それにどう対応していくか、まとめる必要があります。それには、様々な部署や、世代、役職の方を巻き込むことが、TCFDの内容の充実度からしても、対策を実施するうえでも重要です。
TCFDへの理解を、経営層だけでなく、社員に対しても行っていくことで、意見や改善策の多様性が生まれ、TCFDの価値を高めていくことにつながります。
シナリオ分析対象範囲を設定
対象範囲の設定は、対象となる事業を選定し、段階的に範囲を広げていくと取り組みやすくなります。(国内拠点のみ/海外拠点も含む、一部事業のみ/全事業等、連結決算範囲のみ/子会社含む)
シナリオ分析の対象範囲の軸は
- 売上構成(売り上げが大きい事業を対象とするなど)
- 気候変動との関連性(CO₂排出量が多い事業を対象とする)
- データ収集難易度(データを集めやすいものを対象とする) など。
将来の「何年」を見据えたシナリオ分析か選択(時間軸)
何年後のリスクを分析するかで、影響が異なります。どの時間軸に設定するか会社で決める必要があります。
2030年のデータは参照可能なデータが豊富で、事業計画との連携が比較的容易です。ただ、時間軸が短く、物理的リスクの影響が少ないため、インパクト評価が低くなりやすいです。
2050年を選択する場合、物理的リスクが顕在化しているため、影響を出しやすいですが、時間軸が長いため、具体的な取り組みには落とし込みにくくなります。
2,リスク重要度評価
シナリオ分析の最初のステップは、リスク重要度評価です。ここでは気候変動により、どのようなリスク(損害)や機会(チャンス)が考えられるのか、洗い出します。そして、それらのリスクの重要度を大、中、小といった形で評価します。
TCFDはこれらのリスクを大きく【移行リスク】と【物理的リスク】の2つに分けています。
移行リスク
移行リスクは、気候変動政策および規制や、技術開発、市場動向、市場における評価等の変化によってもたらされるリスクです。
<例>
- 炭素税(カーボンプライシング)が3000円、5000円、10,000円と段階的に導入され、原料の高騰や製造コストの増加する
- 電化や再エネ化などを進めた場合に、電力価格の高騰がこれまで以上にリスクとなる
- 顧客の嗜好や行動変化による既存製品の売上が減少するリスク
- 他
物理的リスク
物理リスクは、平均気温の上昇や降水、気象パターンの変化、海面上昇など【慢性】のものと、異常気象の激甚化など【急性】のものがあります。
<例>
- 慢性リスク:
例)雪が降らなくなりスキー場閉鎖、海面上昇により海浜工場撤退、気温上昇による収量減少、冷房コスト上昇など - 急性リスク:
例)洪水などで事業所や工場が浸水や流されるなどで操業停止、物流停止など - 賠償責任リスク(気候変動による損失を被った当事者が他者の賠償責任を問い、回収を図ることによって生じるリスク)も必要に応じて追加
TCFDではリスクだけでなく、ビジネスチャンスになりうる機会についても評価されます。
機会
気候変動による影響や社会変化が経営戦略を立てるうえで機会となる要素を洗い出します。
例えば、交通や輸送手段が効率化する、低炭素製品/サービスの開発や需要拡大などがあります。
移行リスク、物理的リスクと機会 まとめ
【移行リスク】 | 低炭素経済への移行に伴うリスク。政策規制、市場、技術、評判(顧客の評判変化、投資家の評判変化)等。 |
【物理的リスク】 | ・慢性的なもの (平均気温の上昇、降水・気象パターンの変化、海面の上昇、など) ・急性的なもの(異常気象の激甚化など) ・間接的なもの (洪水、旱魃等によるグローバルサプライチェーンの中断や資源枯渇など) ・直接的なもの(財物損壊など) |
【機会】 | 気候変動がビジネスチャンスや収益増加につながる要素 |
【賠償責任リスク】 | 気候変動による損失を被った当事者が他者の賠償責任を問い、回収を図ることによって生じるリスク |
参考データ
次のステップ【③シナリオ群の定義】でも活用するのですが、下記のデータ(【TCFDを活用した経営戦略立案のススメ】ガイドブック掲載)をあらかじめ確認しておくとリスクや機会をイメージしやすくなります。
◆移行リスクについて
- IEA の WEO(World Energy Outlook)
- SSP(Shared Socioeconomic Pathways)
- PRI の IPR(Inevitable Policy Response)
◆物理的リスク
- 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)
- 物理的リスクマップ
- ハザードマップ等
テンプレートの使い方
環境省の【TCFDを活用した経営戦略立案のススメ】というガイドブックをもとに、共通する6つのステップを抽出し、再現して、記入できるExcelテンプレートを作成しました。今回は第二弾として、【リスク重要度評価】のテンプレートを掲載致します。
使い方は、下記ボタンからダウンロードして、編集するだけです。登録などの必要はございません。
テンプレートには、イメージしやすいように代表的な例を記載してあります。御社で該当する例はそのまま使っていただいても構いませんが、例の内容に根拠はございません。ご了承いただいたうえで、あくまでも参考としてください。
不要な例は削除し、追加があれば行を足していただき、リスク・機会の抽出と重要度評価にご活用ください。
最後に
弊社は、株式未公開の中小企業ですが、TCFDに挑戦してみました。公開されているガイドブックを参考に、最初は簡単な形でも、やってみることから始めました。
近々、TCFDに賛同し、弊社のTCFD要求事項を開示予定です。その内容を作るうえで作ったものを、そのまま他の企業の方も活用できる形にしたものが今回ご紹介したテンプレートです。
「大変そう」「難しそう」「良くわからない」といった印象がありますが、そのハードルを少しでも下げられたらと考えています。日本中の企業で勤務される、気候変動に関心がある方々が、会社内で提案するきっかけにつながれば嬉しいです。
TCFDのシナリオ分析は、ESG投資の流れで東京証券取引所や金融庁からの指示、また、株価や企業価値のために取り入れる会社が多いです。だた、中小企業にとっても、長期的な経営戦略を考えていくきっかけになると感じます。
「経営戦略自体、正直ない」という中小企業も多いかもしれません。とにかくリスクを出して、経営層の方々と共に認識することから、始めてみてはいかがでしょうか。
部分的な開示だけでも、社内外の人と情報や意見を共有する機会となります。10年、20年、30年といった長期的な視点で考えることこそが、短期の生産性を重視する傾向が強かった会社や社会にとって、非常に重要な気づきにつながると感じます。
◆ご質問やお問合せは下記フォームからお願い致します。