今回は、TCFDとは、何か、について紹介いたします。
TCFDは、簡単に言うと、
「これから企業経営における気候変動の影響は大きくなるので、それをふまえた経営計画を立てて、わかりやすく開示してください。そうしないと、金融機関からの投資を得るのが難しくなります。」
という提言を発信している組織(また、その発信内容そのもの)のことです。
今、この提言に対応しようと世界中の企業が取り組みを進めています。
ここでは、TCFDは具体的にどのような内容の提言なのか、ご紹介します。
目次
TCFDって何?
TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosuresのことです。
T (Task Force) : タスクフォース(特定の課題解決のために設置されたチーム)
C (Climate-related) : 気候に関する
F (Financial) : 財政上の
D (Disclosures) : 開示
つまり、”金融システムの安定化を図る国際的組織である「金融安定理事会(FSB)」が ” ”G20からの要請を受けて2015年に設置した銀行、保険会社、資産管理会社、大手非金融企業、信用格付機関など世界中の幅広い経済部門と金融市場のメンバー32名によって構成された、民間主導の特別組織です。”
2017年6月に、この組織は提言をまとめ、最終報告書を公表しました。
その内容は、” 企業に対して、【ガバナンス】、【戦略】、【リスク管理】、【指標・目標】の4項目について、自社への財務的影響のある気候関連情報を開示するよう勧める”ものでした。
引用:企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み「TCFD」とは?
参照:環境省 TCFD概要資料
【ガバナンス(統治)】とは
ガバナンスとは、企業自身が企業を管理する、という意味です。
TCFDは、気候関連リスクと機会に関する組織のガバナンスを求めています。
これは、気候関連の課題に取り組んでいる企業内の役員や委員会を、経営陣が監督・管理する体制が必要、ということです。
具体的には、
- 気候変動によって生じるリスクや機会の対策を講じる役員や委員会が設置されているか
- 気候関連の課題や対策は取締役会や経営陣に報告されているか
- 取締役会は意思決定のときに気候関連の課題を考慮しているか
などの項目に関する開示が求められています。
【戦略】とは
戦略に関しては、気候変動に対する組織の事業・戦略・財務への影響を開示することが求められています。
例えば、
- ・重大な財務影響を及ぼす、短期・中期・長期のリスクや機会が特定されているか
- ・2℃目標等の気候シナリオを考慮した強靭な戦略が立てられているか
などの事柄が問われています。
【リスク管理】とは
リスク管理は、気候関連のリスクと機会の整理を行い、評価し、管理することです。
- 気候関連のリスクをどう把握し、どう評価するか
- 気候関連規制要件の現状と見通しを把握しているか
- 気候関連リスクの優先順位付けができているか、どのように重要性を決定したか
などの情報の開示が求められています。
参照:環境省 TCFD概要資料
【指標・目標】とは
最後の項目は、気候関連のリスクや機会の評価にどのような指標を使っているのか、またどのような目標を立てているかということについてです。
例えば、組織が戦略・リスク管理の際に用いることができる指標として、GHGプロトコルというものがあります。
GHGプロトコルは、温室効果ガス排出量の算定に用いられ、世界中で最も活用されている指標です。
「GHGプロトコルという指標を用いて温室効果ガス排出量を計算し、排出量を○○年までに○○%削減するという目標を設定した」といった情報の開示が求められます。
※GHGプロトコルについては、下記をご参照ください。
◆【脱炭素経営】を始める時に抑えておきたい5つの基本!
気候変動のリスクを踏まえた事業計画を立てること、つまりTCFDに対応することの重要性は、年々増加する自然災害を思い出せば、容易に理解できます。
2019年だけでも、台風19号や21号、集中豪雨などの被害がありました。
また、気候変動がビジネスの機会になることもあります。
例えば、暑い日が長期間続くことで、飲料メーカーの売上が伸びたり、電気自動車充電スタンドやスマートグリッド(次世代送電網)技術などの需要が急増する、といったことがあげられます。
このように、気候変動によってもたらされる機会も事業計画に織り込まなければなりません。
企業への投資を検討する世界各国の金融機関が、そのリスクや機会への対応を含めた評価で投資をすることが前提になりつつあります。
TCFDの重要性を高めたPRIの動きとCDPレポート
運用資産約1京円のPRIがTCFDを義務化
TCFDが重要な理由は、世界最大の運用資産があるPRI(運用資産約1京円)が2020年からTCFD関連設問への回答を義務化したことが大きく影響しています。
つまり、TCFDに対応していないと融資や取引をしてもらえない、といった状況になっています。
PRIの運用資産額は年々増えており、今後も世界的に大きな影響力を持つと考えられます。
引用:PRIについて
TCFDのシナリオ分析がCDPレポートの項目に含まれている!
TCFDが重要なもう1つの理由は、PRIなどの投資家が参考にしているCDPレポートにTCFDの勧めるシナリオ分析という項目があるからです。
。
毎年企業に質問書が送られ、その回答の内容が公表され、評価される。
(未返答の場合もその旨が公表される)
CDP 気候変動レポート 2019年 日本版
◆CDPレポートの評価項目
このCDPレポートの評価項目の一つに、「シナリオ分析の導入」という項目があります。
シナリオ分析は、TCFDが提言している内容を実施するときに必要な要素です。
このレポートはTCFD(シナリオ分析)だけでなく、SBT認証やSCOPE1,2,3についての取り組みも把握できるため、企業の気候危機への対策を把握する資料として活用されています。
このレポートにおいて評価が低いと、投資家や金融機関から投資をしてもらえない、また他の企業が取引をしてくれない、といった状況になります。
このことからも、PRIが回答を義務化しており、CDPレポート項目にもなっているTCFD(シナリオ分析)がいかに重要かがわかります。
TCFDの勧めるシナリオ分析
シナリオ分析って?
気候危機が今後、どの程度深刻化するのか、世界の企業や組織がどの程度温室効果ガス排出量を減らすことができるのかは、誰にもわかりません。
そこで、企業や機関は、気候変動が深刻化した場合や、緩和された場合など、さまざまなシナリオについて考えて、それぞれの状況への対策を打っておく必要があります。これをシナリオ分析といいます。
例えば、
- 気温上昇を1.5℃未満に抑えられた場合
- 気温上昇をが2℃未満の場合
- 気温上昇が3℃未満の場合
- 気温上昇が4℃未満の場合
といったように、いくつかのシナリオを設定し、それぞれの場合に何が起こるかを想像し、事業計画を立てることをいいます。
シナリオ分析を行い、具体的な計画を立てておくことで、状況の変化に対して柔軟に対応することができます。
よく活用されるシナリオは?【RCPシナリオ】
将来の気候変動のシナリオにはいろいろなものが考えられますが、ここでは代表的なRCPシナリオについて紹介します。
RCPシナリオは、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Change)によって考えられたシナリオです。
RCPシナリオには、以下の4つのシナリオがあります。
参照:IPCC第5次評価報告書 概要
これらのシナリオは、今後の世界の温暖化対策を4つのレベル(対策なし、少、中、最大)に分けて、それぞれの対策レベルでどのくらい世界の平均気温が上がるかを示しています。
また、IPCCは、それぞれのシナリオにおいて、海の酸性化の度合いや海面水位の上昇の度合いなどの予測もしています。
RCPシナリオは、温暖化による気候変動の物理的なリスクを考えるときに使うことができます。
エコ・プランのシナリオ分析例
弊社も、気候変動による様々なリスクがあります。
具体的には、下記があげられます。
- 作業員の熱中症のリスク増大(真夏に高層ビルの屋上での空調室外機の熱風を受けながら作業をするため)
- 作業員の暑さによる作業事故、ケガのリスク
- 作業時間が減るリスク(日中作業の中止などの可能性)※インドでは、夏場では50℃を超えることがあり、熱中症死亡者数が多く、屋外作業が制限される事態となっています。
- 気温上昇により空調機の冷却可能温度を超える気温になり、故障が多発し、対応しきれないリスク
- 台風によるオフィス損壊や通勤困難による休業、作業延期、中止のリスク
- 集中豪雨によるオフィスの浸水のリスク
また、弊社のサービス拠点のうち3拠点は、台風や豪雨による浸水のリスクがあります。
◆多摩CKテクニカルセンターのハザードマップ
◆栃木CKテクニカルセンターのハザードマップ
◆三郷CKテクニカルセンターのハザードマップ
堤防決壊による浸水によって、三郷CKテクニカルセンター、多摩CKテクニカルセンター、栃木CKテクニカルセンターが1日休業した場合の損失額は、1400万円を超えます。1週間の休業で1億近い損害となります。
さらに、オフィスや倉庫の浸水によって、PCや機材、資材などが使用できなくなる損失も大きなリスクです。
ただ、1企業でできる浸水に対しての有効な対策は現状ありません。非常食を用意したり、社用車を近隣の浸水しない駐車場に止めたり、といったようなことしかできません。
洪水や自然災害の被害は1企業だけにとどまりません。全ての企業、病院や学校、住宅など全てに甚大な影響を及ぼします。
将来のリスクを少しでも減らすには、気候危機を抑制し、洪水などの災害が発生する規模や頻度を抑え、被害を未然に防ぐ以外に、方法がありません。
TCFDのシナリオ分析をすることで、そうした、全てのセクターが取り組む必要性を認識することができます。
最後に
TCFDは、企業に対して、気候危機の影響を真剣に検討するよう勧めています。
そして、検討結果を公表しないと、世界市場に参加できない流れを巻き起こしています。
弊社もTCFDを取り入れられるよう、調査や検討を進めてまいります。