頻発する自然災害、中東等の国際エネルギー情勢の緊迫化、再生可能エネルギーの拡大など、近年電力供給を巡る環境は変化してきています。このような中でも安定した電力供給を行うために、法制度の整備が行われました。
今回は、再生可能エネルギーの新たな導入支援制度を中心に、身近な電力供給を支える状況についてご紹介します。
「エネルギー供給強靭化法」とは?
2020年6月に「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」、いわゆる「エネルギー供給強靱化法」が成立しました。(以下、「エネルギー供給強靱化法」とさせて頂きます。)
この法律は、「電気事業法」「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)」「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)」の一部を同時に改正するものです。
出典:経済産業省資源エネルギー庁
「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ①法改正の狙いと意味
これらの改正により、災害に強く、不安定な再エネの大量導入に適応した電力供給体制の構築を目指しています。今回は、その中でも再エネの導入を支える「再エネ特措法」の改正についてまとめました。
(参照) エネルギー供給強靭化法(経済産業省)
◆エネルギー供給強靭化法をうけての具体的取り組みはこちら
始まった、電力レジリエンスのための新制度
再エネ政策のこれまで
日本は、1970年代の二度の石油ショックを契機に、石油から石炭・天然ガス・原子力・再生可能エネルギーなどの石油代替エネルギーへのシフトを進めてきました。
近年の世界的なエネルギー需要の急増、低炭素化の必要性から方針が見直され、「石油代替」ではなく「非化石エネルギー」の利用促進へと舵を切りました。
そのような中で、2009年に「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(=エネルギー供給構造高度化法)」が制定され、電力事業者に対し非化石エネルギーの利用を促進する枠組みが構築されました。
この法律により、事業者は2030年までに非化石電源比率を44%にすることが求められています。
(参考)「エネルギー供給構造高度化法」について(経済産業省)
中でも再エネの普及を促すため、2003年からRPS制度(電力事業者に一定割合の再エネ利用を義務化)が導入されました。2012年からは、替わってFIT制度が導入されていますが、今回の法改正により新たな制度(FIP制度)へと移行することが決定しました。
FITと問題点
再エネ特措法の改正点の中でも消費者に大きく関わるのは、「FIT制度からFIP制度への移行」です。
では、そもそも、現在再エネを支えている「FIT(Feed-in tariff; 固定価格買取制度)」とはどのような制度なのでしょうか?
(出典:経済産業省資源エネルギー庁)
FITとは「再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度」です。再エネの普及を図って2012年に制定されました。
電気は「発電、送電、配電」※1のプロセスを経て私たちの下にやってきますが、電力は安定供給が原則のため、太陽光のように変動する再エネは送電線につなぐ優先順位が低くなっていました。
そこで、発電事業の予見性を高めて、再エネ発電事業者の参入を促すため、高い価格で長期間※2、国が買い取ることを保証しました。
太陽光発電の導入量とシステム価格推移(エネルギー白書2020より作成)
その恩恵もあり、太陽光発電はFIT導入以降急増しました。一方で、事業者に保証された「高い固定価格」というのは国民の電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」によって賄われています。賦課金による国民負担増大が問題視されており、制度改正の一因となりました。
※東日本大震災以降、電力料金が上昇している要因としては、託送料金の内訳として賠償負担金、廃炉円滑化負担金などの費用が追加されたことも挙げられます。
参考 料金設定の仕組みとは?
FIT導入後の賦課金の推移(出典:経済産業省資源エネルギー庁)
※1
送電:電力会社(もしくは個人事業者)によって発電された電力が、系統(送電線)に繋がれること。
配電:系統(送電線)に繋がれた電力が、消費者の下に送られること。
以前は、東京電力・九州電力などの大手電力会社が発電~配電までを担っていたが、2016年に電力小売が全面自由化、2020年4月に発送電分離が開始し、様々な事業者の参入が促されている。
現状、送電線の所有者はほぼ大手電力会社であり、系統への接続順は先着順となっている(いわゆる「早い者勝ち」であり、以前から使われてきた石炭火力の契約でいっぱいだと再エネはつなげない)。
※2 2012年当初、太陽光発電の買取価格は40円(10kW以上)、42円(10kW未満)と非常に高額。(買取金額は毎年見直されており、2020年度は21円<~10kW>、13円<10~50kW>、12円<50~250kW>、入札で決定<250kW~>となっている)
買取期間は原則20年間であるが、10kW未満太陽光は10年、地熱は15年間。
FIP制度とは?
新たに導入されるFIP制度についてご紹介します。FIPとは「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略称で、電気を卸市場などで販売し、売れた電力に対して国が一定のプレミアム(補助額)を上乗せする方法です。
出典:経済産業省
「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?~「FIT制度」に加えて新たに導入される「FIP制度」とは?
FIPの最大の特徴は市場を活用する点にあります。例えば、空調需要の少ない4月頃、日照量が多く太陽光発電量が増加した場合、需要に対して供給過剰になります。電力は余るのでこの時間帯の「市場価値」は下がりますが、FITの場合はいつでも固定価格で再エネが買い取られます。
しかし、FIPでは「市場価値」が下がった分、その時間帯の収入も減少します。
これにより、発電事業者は市場価格の高いとき(需要が多く供給が少ない)に発電し、市場価格の低いとき(需要が少なく供給が多い)には蓄電や自家消費などにより、市場に売る電力量を調整しようと努めることになります。
変動性再エネが大量導入されることを想定すると、「発電した分すべて供給する」のではなく「需要に合わせて調節する」ことがいっそう重要となります。
まとめ
2050年カーボンニュートラル達成に向けて、再エネの主力電源化に向けた動きはますます加速しています。
再エネの大量導入を支えるためには、「供給が需要に合わせる」だけでなく、私たち消費者が供給に合わせて需要を調整するというデマンドレスポンスの考え方も重要となります。
時間を選ばない電力使用(充電など)を需要の少ない夜間や日照条件の良い昼間に行えば、再エネを支えるとともに電力料金の削減にもつながります。
変化し続ける電力関連制度を把握するとともに現状の電力利用を見直し、賢く利活用してみてください。
◆使用電力の省エネをご検討される場合は、いつでもお問い合わせください。
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