今回は2050年脱炭素目標と関連性が高い、環境負荷に対する新たな考え方として注目されている「LCA」についてご説明いたします。
LCAってなに?
LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)は、製品やサービスに必要な原料の採取から、製品が使用され、廃棄されるまでのすべての工程での環境負荷を定量的に表そう、という考え方です。
エアコンを例に考えてみましょう。環境によくない理由として、多くの人は、使用するときの電力消費に目を向けると思います。
たしかに、エアコンの環境負荷はそのほとんどが使用によるものですが、実際のエアコンの環境負荷は下記のようなものがあげられます。
- 【原料の採掘】原料である金属や石油などの採掘に伴う排出
- 【原料の運搬】原料を船やトラック等で配送する際の排出
- 【原料の加工】原料を材料に加工する際の工場でのエネルギー使用や副産物処理に伴う排出
- 【製品の製造】材料を製品に組み立てる際の工場でのエネルギー使用や副産物処理に伴う排出
- 【製品の輸送】出来上がった製品の輸送や工事における排出
- 【設置、使用】製品の設置や使用時のエネルギーに伴う排出
- 【製品の廃棄、運搬】製品廃棄時の輸送や廃棄処理(焼却、粉砕、圧縮)埋め立てに伴う排出
エアコンは、使用している時の電力消費だけでなく、製造から廃棄まで、これだけの環境への負荷を与えています。環境に対する影響を評価する際は、これらすべての工程で排出される温室効果ガスを足し合わせる必要があります。
製品やサービスごとのライフサイクル(原料採掘から廃棄まで)全体の環境負荷を数値化し、定量的に評価する手法がLCAです。
※LCAは大気(温室効果ガス)だけでなく、水や土壌への評価を含みます。
LCAの重要性
では、なぜLCAの考え方は重要なのでしょうか?その背景には、2050年脱炭素目標があります。
2050年に脱炭素を達成するためには、すべての企業や組織が、温室効果ガス排出量を0にする必要があります。
この目標を達成するためには、
- 2030年には50%削減
- 2040年には75%削減しなければなりません。
大企業では、すでに削減目標を設定し、削減への取り組みを始めている方々も多いと思います。
一方で、中小企業やそのほかの組織、機関は何から始めればいいのか、わからない方々も多いのではないでしょうか。
Q.そもそも自分の会社は、今どのくらい温室効果ガスを排出しているのか。
Q.具体的にいつまでに何トン削減すればいいのか。
Q.まず、どこから削減に取り組めばいいのか。
いつまでにどこをどれくらい削減すれば目標を達成できるのか、という計画を立てるためには、【総排出量】と【排出の内訳(どこでどれだけ排出しているか)】を知ることが必要不可欠です。
この数値を出すために必要なのが、LCAです。
2050年脱炭素に向けて
先日、菅首相が所信表明演説において、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると宣言し、注目を集めました。
また、新しいアメリカ大統領となるバイデン氏も、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す、と表明しています。
世界では多くの国々がこの動きに賛同していて、環境問題に対して積極的に取り組もうという国は着実に増えています。この流れは今後さらに加速すると思われています。
そのとき、LCAの考え方は環境負荷を測る指標として広く受け入れられ、世界のスタンダードになると考えられます。
LCAによって温室効果ガスの排出量を数値として計算し、どの段階での排出を削減すればよいのか「見える化」することで、2050年の脱炭素社会の実現につながります。
アメリカの環境政策については下記の記事をご参照ください。
◆大統領選挙後のアメリカ!押さえておきたい4つの環境政策!!
LCAってどうやって使うの?
LCAにはいろいろな使い方があります。「個人で使う場合」と「仕事で使う場合」に分けて、その使い方の例を見てみましょう。
仕事で使う場合
仕事でLCAを使う場合、自分の会社がどれくらい温室効果ガスを排出しているのか、を計算するのが最も一般的な使用法であると思います。
自分の会社が排出している温室効果ガスを計算するとき、必要となるのが、排出原単位です。
排出原単位って?
排出原単位は、活動量あたりのCO2排出量のことです。
例えば電気1kWhを使用したときのCO2排出量などを示しています。
◆排出原単位は、排出原単位 – 環境省で見ることができます。(下図赤枠リンクをダウンロード)
環境省のページのデータを開くと、例えばこのような画像が得られます。これを参考に、様々な燃料を使用したときのCO2排出量の原単位を見ることができます。
例えばガソリンの温室効果ガス排出量を出したいときは、使用量×原単位(赤文字の数字)で出すことができます。
◆エアコンの排出原単位は?
排出原単位のデータベースの【5産連表DB】の中に、「冷凍機・温湿調整装置」という部門名があります。エアコンはここに含まれます。エアコンの原料調達から製造までの排出原単位は0.203t-CO₂/台、つまり、1台で203㎏の二酸化炭素を出しているということになります。
これは樹齢36~40年の杉の木約23本分の一年間のCO₂吸収量に相当します。(参照:林野庁)
◆原単位のデータベースはたくさんあります。
国内排出量データベース一覧
これらのデータベースは様々な機関によって作られていて、それぞれ特徴があるので、その時々にあったデータベースを使うことができます。
個人で使う場合
普段買い物をするときに、製品の環境負荷が気になったことはありませんか?
各製品のLCAがわかれば、その環境負荷も知ることができます。
それでは、製品のLCAの情報はどのように手に入れればいいのでしょうか?
実は、エコリーフ環境ラベルというものによってLCAの情報を簡単に調べることができます!
エコリーフ環境ラベル
製品の環境情報についてLCAを用い、定量的に表示し、インターネットで公開することにより、消費者のグリーン購入に活用するとともに、メーカーが環境負荷のより少ない製品を販売していくための動機付けとなることをねらいとしたラベル。
このラベルがついている商品については、その登録番号をエコリーフ環境ラベルのウェブサイトで調べることで、LCAの情報をみることができます。
ここで、どのようにエコリーフ環境ラベルを用いればよいのか、詳しく説明いたします。
エコリーフ環境ラベルに登録されている商品にはこのようなシールが付いています。
このシールの下部の番号(赤枠内)が製品の登録番号です。
・エコリーフ環境ラベルウェブサイト
製品の登録番号をエコリーフ環境ラベルのHPの検索欄(上の写真の赤枠内)に入力すると、製品のLCA情報が閲覧できます。
製品のLCA情報は、このように記されています。ページの冒頭には主な環境負荷の数値や各ステージでの環境負荷のグラフがわかりやすく示されています。
例えばこの製品では、
- 製品に使用する素材を作る際の環境負荷
- 使用による環境負荷
が特に大きいことが、グラフからわかります。また、製品のリサイクルによって環境負荷を小さくしていますが、その効果はとても小さいこともわかります。
さらに、製品環境情報開示シートというものには、各ステージでの資源の消費量や有害ガスの排出量が具体的に記されています。
上の図の赤枠内は各ステージでの有害ガスの排出量を表しています。
例えば、素材の製造によるCO2排出量を調べるときには、上の「素材」の列と、左の「CO2」の行を照合します。すると、CO2排出量は3.44E+03kgであることがわかります。
同じようにすると、物流でのSOx排出量は1.06E-01kgであることが読み取れます。
E+03 ⇒ 10の3乗 ⇒ 1000
E+00 ⇒ 10の0乗 ⇒ 1
E-01 ⇒ 10の-1乗 ⇒ 0.1
3.44E+03kgは、3.44×1000kgなので3440kgです。
1.06E-01kgは、1.06×0.1kgなので0.106kgです。
エコリーフ環境ラベルを使って、製品のLCAを他の製品と比較することによって、より環境負荷の小さい製品を選べます。
ただ、現在ではエコリーフ環境ラベルに登録されている商品はあまり多くありません。これからより多くの製品が登録されることに期待したいです。
LCAの問題点・課題
LCAの考え方は環境への影響を考える際に非常に便利ですが、それを正確に求めるのは非常に難しいです。それは、LCAを使って環境への影響を計算するとき、一つ一つの製品が違う条件で作られ、使用されるからです。
例えば、エアコンだと、
・どれくらいの頻度で使用するか
・エアコンの素材を作るために使われた電力が、どこでどのように発電されたか
によって、環境負荷が違います。これらのことをすべて正確に調べるのは難しいので、多くの場合は大雑把な計算をせざるを得ません。今後、社会の変化を考慮しながら、より正確に環境負荷を計算できるようにすることが、LCAの課題であるといえます。
また、それぞれの企業、組織で温室効果ガスの削減に取り組んだ場合、画一化されたLCAデータベースでは、細かな削減量の計算ができません。
例えば
- 製造ラインで部分的に再エネを導入した場合の排出原単位
- 輸送の一部で再エネ由来のEVを利用した場合の排出原単位
といったそれぞれの企業の取組に合った排出原単位はありません。
LCAを理解したうえで、自ら計算する必要が出てきます。だから、LCAは脱炭素の取組が進めば進むほど重要になってきます。
最後に
LCAによる評価は、環境負荷を考えるための非常に便利なツールで、脱炭素社会の実現には不可欠です。まずは、既にあるLCAを活用した排出原単位で、所属する企業や組織の温室効果ガス排出量の大枠を計算してみてはいかがでしょうか。
※LCAの算定方法の基準を定めたGHGプロトコルは世界中で最も活用される指標となっています。LCAの算定範囲を3つの枠でわかりやすくまとめたものが、SCOPE1,2,3です。
より詳しい算定方法については下記をご参照ください。
◆SBT目標設定、SCOPE算定って何から始めればいいの?
◆【SBT目標 SCOPE1,2算定に挑戦!】SCOPE1,2の計算方法!
◆【脱炭素経営】を始める時に抑えておきたい5つの基本!
◆何が違うの?カーボンニュートラルとカーボンゼロ、他カーボン用語を解説!
◆【中小企業向けSBT認定 目標設定レター】どうやって出す?お手伝いします。
LCAの情報をうまく活用して、2050年脱炭素社会の実現に貢献していきましょう!